ここ数日、ネット上で話題にして頂いているライフネット生命。タイトルで皆さんの関心を引けるようになったら、少しは知名度があがってきた証か。
さて、色々な説明が出回っているようなので、夏の特集として、医療保険を勉強してみよう。
医療保険を上手に使いこなすには、公的な医療保障や、医療費の実態などについてきちんと理解をしておく必要がある。以下、業界人向けの研究書である「民間医療保険の戦略と課題」(堀田一吉編著)を参考書として横において、整理してみた。
● 国民医療費は32兆円、自己負担の医療費は6兆4,000億円
国が負担している国民医療費は約32兆円。このほぼ4割の12.4兆円は70歳以上の高齢者が消費した。費用の大半は、現役世代からの所得移転によってまかなわれている。
32兆円のうち、患者の自己負担費用は4兆7,000億円に達している(2002年度)。内訳は、入院外の医療費が2.1兆円(46%)、入院医療費が1.3兆円(28%)、薬局調剤0.7兆円(15%)、歯科診療0.5兆円。
これに含まれない「医療周辺サービス」が、さらに1兆7,000億円もある。内訳は差額ベッド代が約4,000億円で、大衆薬が約7,600億円、歯科自由診療費が約4,500億円、人間ドックが約600億円とのこと。これらをすべてを足すと、医療費の自己負担額は約6兆4,000億円。国民一人当たりに直すと、年間5万3,000円になる。
● 民間医療保険は公的保険を補完するものに過ぎない
では、このような中で、民間医療保険はどのような役割を果たすのか。
そもそも、アメリカなどと違って国民皆保険制度が整備されているわが国では、民間医療保険は公的保険を補完する役割を果たすに過ぎない。すなわち、医療サービスの基本となる部分は公的医療保険が担い、個人が負担するのは、①治療費の自己負担、②差額ベッド代など、③大衆薬など、④自由診療の費用となるが、これを一定割合でカバーするのが民間医療保険である。
なお、治療費の自己負担部分については、現役世代については3割であるが、一定の上限を設ける高額療養費制度があるため、実際には1か月当たり10万円以下に収まることは、意外と知られていない。そして、以前はこの費用は立て替えた上で後日請求する必要があったが、昨年4月の「高額療養費の現物給付化」によって、一定の手続きを経ることで立て替えが不要となったことも、まだあまり知られていないようだ。
入院1日当たりで給付される民間医療保険は、所得補償の意味もあるといわれている。もっとも、企業勤めをしているなど、被用者保険や国保組合に加入してい
る場合は、病気で休んだ期間も「傷病手当金」という名目で、標準報酬の6割が1年6か月を限度として支払われるので、この必要性は薄れる。これに対して
自営業者の方など、市町村国保は傷病手当金が給付されないため、逸失所得のリスクを自身が負担する必要がある。
● 医療保険、いくらもらえるの?1兆3,000億円/25万円
民間医療保険による入金給付金等支払額は、簡保・JA共済を含めると1兆3,000億円程度(2002年度)。マクロでみると、患者負担費用に対する支払
割合は約2割。これを見ると、一定の割合は果たしているとも考えられるし、他方でまだ8割の部分で、医療保険が活躍するポテンシャルがあるとも考えられ
る。
もっとも、現在の標準的な医療保険商品は「一入院当たり」という給付が標準となっているため、入院を伴わない費用については担保されるわけではない。また、入院日数の短縮化に伴い、給付金額が少なくなる可能性がある。
昨年、実際に支払われた医療保険の平均金額を計算してみると、入院給付金が6190億円÷459万件=13.5万円、手術給付金が2457億円÷221万件=11.1万円。二つ合わせて、平均の給付金額は約25万円となっている。もちろん、この数字は5万円もらった9人と、205万円をもらった人が一人いても同じ結果となるため、保険の世界では平均は意味をなさない、とも考えられるが。
また、人によっては冷静にペイバックを計算する人もいるだろう。平均25万円をもらうために、毎月3000円=年間3万6000円も払うのは馬鹿らしい、と思う人もいるだろうし、60日限度で60万円しかもらえないなら貯金あるからいい、という人もいるだろう。
結局、言えることは、医療保険が万能ではないし、すべての人に必ず必要なものでもない、ということである。公的な保障がカバーされる範囲を理解し、民間医療保険でいくらもらえて、そのためにいくら保険料を支払うのかを理解した上で、貯金で備えるか、保険で備えるか、を判断すべきなのだろう。
当社でも、「意外と少ない医療費の自己負担」とか、「医療保障は貯蓄を第一に考えるべき」などといった考えを、HPで述べている。
● 所得の再分配と公金投入ができない民間医療保険の限界
そもそも、民間の医療保険には公的保険と比べて限界があり、すごく「お得」な商品が作りにくい構造になっている。
公的保険は、社会保障費の名目での税金の投入と、世代間や、世代内の所得の再分配ができる。同じ年齢で同じ収入であれば、医的リスクの大小にかかわらず保険料は一定である。つまり、低リスク者から高リスク者へ、所得の再分配が行われていることになる。また、話題になった後期高齢者医療制度がそうであるように、高齢者の医療費のほとんどは現役世代及び税金によってまかなわれている。
これに対して、民間の医療保険はこのような再分配も公金投入もできない。高齢になればなるほど、多くの人が医療保険の給付を受けることになるため、一人ひとりが自分の将来の給付分を積み立てていく必要がある。死亡保険などと比べると「保険」が利かない、、積立方式に近い構造になっているのである。
とすれば、民間医療保険商品はレバレッジ効果が低いわけだから、常に貯蓄とのバランスで考えるべきことになる。年を取れば必ず体にガタがくるのだから、老後の医療費はある程度は、自分で貯蓄で備える必要がある。もっとも、誰しもが上手に貯金をして、一生涯にわたって自身の資金管理ができる訳でもないので、保険にはそれを補完する意味合いもあるのかも知れない。
● 保険会社は第3分野で儲けすぎ?
なお、第3分野の年換算保険料は4兆1,362億円(39社計、2004年度)という数字がある。つまり、4兆円強を保険料としてもらっていて、現時点では給付金等として払い戻しているのは1兆弱に過ぎない。残りは、将来の支払いに備えて積み立てている部分と、事業費など経費に充てられていることになる。
このように将来に向けて多額の保険料を積み立てていることは、必ずしも非難すべきではない。伝統的に死亡保険を中心としてきたわが国の生命保険市場では、医療保険はまだ日が浅く、特に、終身医療保険は発売からまだ日が浅いため、高齢者のデータが乏しい。契約者グループが高齢化するのに備えて、将来の給付のために十分な責任準備金を積んでおくことは、契約者の利益になる。
加えて、今後の医療技術の進歩によって死亡が減り、手術給付などが増大する懸念もある。医療保険は入院するか否か、どの程度回復したら退院するかなどについて、一定程度個人の選択に委ねられるため、モラルハザードが働きやすい。したがって、支払を全うするためにも、保守的に基礎率・料率を設定せざるを得ない。
とはいえ、現時点において、第3分野の商品が第1分野よりも高い収益率をあげていることは否定できない。どのようにしてバランスを取るかが、今後の課題であろう。
● 心配なのは、死亡よりも寝たきり状態?
最後に、少し勉強された方が言われるのが、「本当に心配なのは死亡した場合ではなく、寝たきりで働けなくなった場合だ。所得は入ってこないが医療費はかかる、最悪の状況に備えるための、長期障害所得補償こそが必要だ」ということ。
実際、業界でも「ディサビリティこそが医療保険に最後に残されたフロンティア」とも言われている。
この点については、また長くなりそうなので、別の機会に書きます~。
以上、まだ勉強不足の点もあると思いますので、気づかれた点などありましたら、ご指摘ください。
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