業界の偉い人たちが面会を求めてきた。
「岩瀬さん、業界の秩序を考えた方がいいよ。あなた、どういう立場かわかっているの?」
明かなブラフである。
「何ですか、業界の秩序って?法律に触れていますか?」
「いや、触れてはいない。触れてはいないが、法に触れる触れないの前に、業界の秩序というものがあるんだ。あなたは途中からこの業界に入ってきたから分からないのだろうが、この保険業界というのは、三十年、四十年、ずっと業界の秩序で成り立ってきたところなんだ。それを乱すことはわれわれが絶対に許さない。」
「・・・心にとどめておきます。」
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以上、妄想です。
松井証券の松井道夫社長の「おやんなさいよ でも つまんないよ」を読んでいる。業界の異端児として旋風を起こした松井氏の本に出てくるのが、上のやり取り(「岩瀬さん」と「保険業界」を読み変えて頂ければ)。
業界が大きく変わるときは、何らかの軋轢は必ず生じるもので、それを恐れてばかりいては、大きな変化は起きないのかもしれないなぁ、と感じた。
それ以外も、読んでいて我々にとって示唆に富む箇所がいくつもあった。
『当時、証券界では「勧誘されることを嫌うお客をターゲットにしても商売にならない。」と考えられており、まさに「ニッチ」であたわけだ。ただ、「証券業界の人間」ではない私にとって、その「隙間」はすさまじく広いように思われたのだ。
・・・
もっとも私は漠然と、勧誘されることを嫌う顧客のマーケットは凄まじく広い「隙間」であると考えていた。しかし、それすら過小評価であったようだ。実は、このマーケットこそが「メイン」であり、「メジャー」だったのだ。松井証券は、全く勧誘することなく、株式の委託取引高で大手証券の牙城を崩した。』
確かに、生保は「勧誘しないと売れない」ということの最たるものであると信じられている。いま、当社に来て下さっているお客さまは、まだ「ニッチ」かも知れない。しかし、10年後も果たしてそうなのだろうか?証券で起こった変動が、起きないと言い切れる理由はあるのだろうか?それを否定する人たちは、当時のダイレクト証券を否定していた人たちよりも、ずっと賢いということだろうか?
『生命保険のファイナンシャル・プランナーなる存在なども、発想の原点を間違えている典型だ。アメリカではファイナンシャル・プランナーでも、生保のブローカーでも、証券のセールスマンでも、軸足は顧客に置いている。顧客のための仕事をしている。顧客に雇われているという発想だ。日本の生保のファイナンシャル・プランナーは、大半が顧客ではなく会社に雇われている。「○○生命のファイナンシャル・プランナー」という言葉は論理矛盾なのだ。なぜなら、A生命のファイナンシャル・プランナーは「A生命よりB生命がいいですよ。」とは絶対に言わないからだ。自分が雇われている保険会社が良い、ということを前提にしたプランナーなど、プランナーでも何でもない。本当のプランナーならば「A生命のこの商品はお客さんにとって良くない。向いていない。B生命のこの商品の方がお勧めだ。」と言わなければならない。
要するに、顧客に軸足を置いているか否かの違いだ。これは規制産業の最も陥りやすい落とし穴である。自分たち中心の発想、つまりセールスに過ぎない。アドバイスでもコンサルティングでもなく、単なるセールスだ。』
こちらは、ごもっとも!としか言いようがない。自分たちはお客さまのためになっているつもりでいても、自社の商品を販売しようとする行為はセールス以外のなにものでもないということを、再認識させられた。
もちろん、証券と生保は同じではなく、多くの違いがある。それでも、世の中を大きく動かしている原理・原則というものは、業界を超えて、共通するような気がする。証券界の変革の立役者の一人である松井氏の歩みを学ぶことで、どこまでが今後のネット生保の展開を占ううえで役立つか。よく考えていきたいと思う。
僕の一番好きな言葉「異端児」に反応してしまいました。もう「異端おじさん」ですけど…。
私の同級生で大学病院を辞めて、町医者をやっている友人は、自分の医院の設備や看護師などの人員では手に負えないと判断すると、その患者に対して直ぐに「紹介状」を書く。しかも自分の「見立て」を詳細に記載したカルテを添付して…。でも、これって普通はなかなかしないらしい。なぜなら、自分の見立てによっぽどの自信がなければ、自分のスキルが低いことが他の医者にバレてしまうからだそうだ。しかし、友人曰わく「人の命が係っているときに、自分のメンツやプライドで紹介状を書かないなんて出来ない。書かなかったら殺人罪と同じだよ!」だって…。岩瀬さんのFPの話を読んでて、FPも“かくあるべき”と思った次第です。 頑張ってください。
投稿情報: sugiyamahayato | 2008年8 月13日 (水) 07:40