ネット生保原価開示で大反響 「1日24万PV」、問い合わせも殺到
との見出しで、J-CASTニュースが取り上げてくれました(記事へのリンク)。今回興味深かったのは、この記事で引用されている大手生保広報室からのコメント:
『保険料は、保険の種類、サービスのレベルで水準が異なっています。保険に加入するときに、コンサルティングをしたり、契約内容を確認したり、定期的にお客 さまに訪問したりすることが不可欠なサービスだと考えています。付加保険料は、サービスに応じて定めているわけです。』
ここまで読んで、まったく正論だと思った。ネットでは対面型のサービスがない分、付加保険料は低くてすむ。これに対して、対面型の販売モデルを取っている会社はサービスが「定期的にお客さまに訪問したりする」分、付加保険料は高くなる。
理解できなかったのは、そこから「原価は開示すべきではない」というロジック:
『サービス内容も含めて、どのような保 障をお客さまに提供するかという企業方針に基づくものですので、原価は開示すべきものではないと考えています』
高付加価値なサービスだと胸を張れるのなら、堂々と開示されればよいのでは?「保障」という純粋な機能(≒原価)とは別に、いくらそのサービス代として払っているかを開示して、それを選ぶか否かの選択をあおげばよいのではないか?
この記事であげられている例(30歳男性・10年定期・3千万円)では、当社の付加保険料が年間1万円であるのに対して、ある大手生保は5万円。差額の4万円×10年間=40万円を払ってでも、加入時の「コンサルティング」や「契約内容確認」、「定期的な訪問」といった高付加価値サービスを選びたいか否かを、ひとりひとりにお客さま選んで頂ければよいのではないか?
明日、慶應大学の保険研究会で発表することになっているのだが、準備している過程で以下のような論文に出会った(ポイントを抜粋):
Strategic Price Complexity in Retail Financial Markets
(Carlin, Bruce I., December 4, 2006)リテール金融市場における戦略的な複雑価格設定
Ignorance is a source of oligopoly power --- 消費者の無知こそが、寡占の市場支配力の源泉である。リテール向け金融商品の供給者は、価格をより複雑にすることによって消費者の無知を作りだし、これによって市場支配力と業界利益を維持する力を手にする。
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最良の取引(ベスト・ディール)を見つけることが難しくなるほど、多くの消費者が業界価格について情報を得ないままでいることを最適な選択として選び、これによって価格のバラツキが広がり、競争の失敗が起きる。
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消費者の効用 = 商品の本源的価値 - 価格 - 探索費用
企業は消費者に探索費用が高くなるよう、情報が与えられることを防ぎ、商品をより複雑にし、販売チャネルとの間で業界の利潤を保持するようなインセンティブを伴う契約を結ぶ。
明日の発表では、生命保険業界における「市場の失敗」、すなわち消費者に価格に関する情報が与えられていなかったため、競争が不完全なものにとどまり、いかに業界に利潤が留保され、消費者余剰、社会的厚生が拡大することが妨げられていたかを、お話する予定。
こちらも参考になりました:
今まで依って立っていたものが、少しずつ崩れていく始動を感じています。
HPでの原価開示が、2週間ほどたってからこんなに話題になっているんですね。
ブログで少し、取り上げさせていただきました。
投稿情報: ベンチャーで働く会計士 | 2008年12 月12日 (金) 15:36
純保険料って保険会社によってそんなに差があるのでしょうか?(消費者が選択的になる程の)
投稿情報: passer-by | 2008年12 月12日 (金) 11:20
お久しぶりです。
なんだか付加保険料(率)にフォーカスしてますが、純保険料はどこもまったく同一なのですか?
もし同一商品で純保険料に差があるのなら消費者から見たら付加保険料にフォーカスする必要はなく単純に支払うべき「保険料」の比較でよいのではないでしょうか?
>最良の取引(ベスト・ディール)を見つけることが難しくなるほど
>企業は消費者に探索費用が高くなるよう、情報が与えられることを防ぎ、商品をより複雑にし、
単純な「保険料の比較」より「原価の比較」のほうが商品を複雑にし、ベストディールを見つけることが難しくならないでしょうか?
確かに原価を開示することは消費者にプラスかマイナスかといえばプラスだとは思いますが、原価の議論が消費者にとって本質的な問題かどうかはまた別に思えます。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年12 月12日 (金) 00:25
こちらの記事、出口社長の出された本と併せて読んで、楽しく勉強させていただいてます。
貴社が何のために生まれたのか、とてもよく象徴している争点だと思いました。
逆風のあたりも強いかと思いますが、負けずに頑張ってください!
投稿情報: たいてん | 2008年12 月11日 (木) 22:08
結局いままで消費者が感じる効用分のサービスを適切な価格で提供できていないという自信のなさの表れがということでしょうか。おそらく本人も気づいているはずが。
リアルコマースからエレクトリックコマースへのシフトが保険という”無形の”サービスでも起こっているのは興味深いです。
投稿情報: ykono | 2008年12 月11日 (木) 18:05
確かに保険群団の利益は事後的に決まる(販売時点では決まらない)と言う特殊性があるという説明は頷けるし、だから、今回の純保険料と付加保険料を分けて開示した行為は、原価の開示ではなく保険料の『便宜的な分解』に過ぎないと言ってしまえば、そうかもしれない。それでも開示しないより、純保険料と付加保険料をそれぞれ開示してくれた方が消費者にとってはありがたいと私は思う。また、付加保険料の多寡で、その保険会社の姿勢を窺い知ることができ、契約するか否かを判断する大きな材料になると思う。
だから『原価の開示ではないかも知れないけど、純保険料と付加保険料を分けて開示した事』って、これから生命保険の契約をしようとか乗り替えようとかを考えている人にとっては、凄く!うれしい-!!。
そして、いずれ、ライフネット生命が大きくなって、本当の原価を開示する時期が来るような気がする。つまり、契約者から支払を受けた純保険料と死亡した人に払った支払保険金の差を契約者へ返し、契約者から支払を受けた付加保険料とライフネット生命が使った経費の差を株主に配当すると言う、株式会社の生命保険として『究極の原価開示』をする時がくるのではないでしょうか…。
投稿情報: sugiyamahayato | 2008年12 月11日 (木) 16:24
そもそも『保険の原価』はどの様に決めるべきなのでしょうか?
ここでは『保険の原価』と言うのは保険料を純保険料と付加保険料に分けた場合の純保険料を意味していると推察しますが、トラディショナルな生命保険では純保険料は一意的には決まりません。保険群団の利益は事後的に決まる(販売時点では決まらない)と言う特殊性があり、負債評価上の純保険料は利益パターンをコントロールしているに過ぎません。結果として、会計上の保険の原価は会計基準等により異なります。また、事後的に変更する(変更しなければならない)こともあります。更に、プライシング上の純保険料と会計上の純保険料も必ずしも一致しません。
保険の原価をどの様に決めるかと言うのは非常に難しい問題ですし、個人的には「開示すべきものではない」と言うより、正しく説明するのが難しいと思います。(あたかも純保険料が一意的に決まるかのような説明が行われるとしたら、ミスリーディングなのではないかと言う気がします。)
また、消費者への説明や情報提供は非常に重要だと考えますし、現在の状況が良いとは思いませんが、『原価』の開示が消費者にとってどの程度有意義かは一概には言えないとも思われます。飽くまでも契約者が支払うのは保険料であり、少なくともトラディショナルな保険では純保険料と付加保険料は言わば『便宜的な分解』に過ぎないとも言えると思います。
投稿情報: K | 2008年12 月11日 (木) 13:53
PHP読みました~!!カッコいいっす!僕今二浪なんですが、憧れてます!
保険って何かこう…高給じゃないですか笑
おかしいなって思ってたんです。僕も何か日本のためになるようなことをしたいです。
投稿情報: とく | 2008年12 月11日 (木) 02:12
はじめまして!いつも楽しく読まさせていただいております。生保業界にシュンペーターのいう「創造的破壊」を起こして下さい。応援してます!
投稿情報: トム | 2008年12 月11日 (木) 01:15
全くの正論だと思います。凝り固まった生保業界にどんどん新しい風を吹き込んでいって下さい!
投稿情報: seiho | 2008年12 月11日 (木) 01:02
どうでもいいGNP延長営業をやってきた日本社にはコンサルティング営業もなにもないわけだから、非対称性が崩れると同時に超過利潤も崩れるわけですな。
いわゆる外資にとっても御社のパフォーマンスはウエルカムな話です、ファッションでいうところのH&Mみたいなもので、流通に革命を起こして既得権益をぶっ壊してくれるんだから。
ぜひもっと、予定死亡率や予定事業費率のいやらしい設定とか、予定利率の利差損をいかにばれないように他でカバーしてるかとか、そういった生保経営のなんだかなぁを一般の人にも知っていただきたいと思いますねぇ。
投稿情報: Chiquitita | 2008年12 月11日 (木) 00:50
なるほど。毎度ながら勉強になります。
投稿情報: どどんぱ | 2008年12 月10日 (水) 22:53