すでにあちこちで語りつくされている内容ですが、少し前に作った図に沿って頭を整理してみました。「こんなの知ってるよ~」という人は、飛ばして下さい。
【市場プレイヤーの資金の流れ】
1. 貯蓄金融機関が国民に対して大幅に緩和された審査基準のもと、住宅ローンを過剰に貸し付けた(サブプライムかプライムかの区別よりも、固定金利ローンか変動金利ローンの区別の方が意味をもつことは、前回のエントリーをご参照)
2. 貯蓄金融機関が大量に資金供給できたのは、
① 証券化技術の発達によって、個々の住宅ローンを束にして証券化した商品(Mortgage Backed-Securities)を買い取ってもらえるようになったから
② 政府系住宅金融機関(GSE)が持家推進の政策および株主利潤最大化の目標のもと、大量に資金供給したから
3. 証券化商品をバンバン売ることができた(=資金が大量流入した)のは
① 少しでも高いリターンを求める機関投資家(銀行、年金基金、ヘッジファンドなど)が、見た目のリスクリターンのバランスがよさそうなMBSに潤沢に資金を供給したから
② (もともとはAIG Financial ProductsがJPモルガンの依頼のもとに「発明」した)クレジットのヘッジ商品(CDS)が流通していたため、証券化商品を組んでいる投資銀行やそれに投資する機関投資家も、「リスクはヘッジされている」と信じてクレジット商品に投資できたから
【マクロ的な市場環境】
4. 機関投資家のもとに大量に資金が集まっていたのは
① 米国社会の高齢化による年金マネーの市場への流入
② 低金利に支えられた、20年以上もの空前の好景気と株式市場の上昇
③ それをファイナンスした日本、中国、産油国、新興国のマネーの存在
5. 金融機関が高レバレッジ、高リスクな投資戦略を取っていたのは
① 際限のない成果報酬主義が普及しているため、毎年の会計年度内に可能な限りの収益を追求するインセンティブが個々人に存在していた(ノーリスク、オールアップサイド)
② 高レバレッジを可能にするジャブジャブのマネーの存在(4. ③と同じ)
6. 個人も高レバレッジを怖がらなかった理由は
① 過去20年以上、住宅ローンだけでなく自動車ローン、クレジットカードなどの分野において国民が容易にクレジットにアクセスできたため、低い貯蓄と高い借入に慣れきってしまっていた(「貯蓄」という苦しい選択を取る必要がなくとも豊かな生活を享受できた)
② 住宅価格が上昇し続けていたため、少し多めに借りても資産価格の上昇によって返済できる、という(バブルに典型的な)考えを生んだ
【監督当局など】
7. 拡大する格差社会に対応すべく、持ち家比率の向上が政治の政策として強力に推進されていたため、貯蓄金融機関監督当局(OTS)も緩い監督基準を採用していた。また、政府系住宅金融機関も大量に資金を供給していた。
8. 格付け会社も証券化商品の中に、返済能力が低いものが多数含まれていたことを認識しておらず、高格付けを付けていた(彼らの収益は格付けされる金融機関からの手数料収入であるため、厳しく格付けをするインセンティブが働いていなかった)
9. CDSなどのデリバティブをも、先物商品と同じように取引残高などを当局の監視下におくべき、という主張が1990年代後半から、当時の商品先物取引委員会の委員長によって叫ばれていたが、グリーンスパン、ルービン、サマーズなどが猛烈に反対。結果、クレジット関連のデリバティブ商品は完全にオフバランスで雪だるま的に膨らんでいった。なお、(あとから考えてみれば)CDSは倒産リスクに対する「保険」にほかならないので、州政府の保険当局の監督下に置くべきであった、という主張もある
10. 会計基準を取り決めるFASB(財務会計基準審査会)も、金融機関や企業のデリバティブ取引に関する会計基準を適切に取り決めなかった。結果、デリバティブを買った側は貸し倒れ費用を削減することで収益を計上し、売った側は手数料収入を売上として計上し、両側に際限なく収益が認識されていく会計処理が取られてきた。
【思想的背景】
11. レーガン以降の規制緩和と市場(信奉)主義が深く信じられていたため、グリーンスパンやルービンをはじめとする経済政策の担い手も、先端の金融取引については市場の自主的な修正に任せるべき、と信じていた。
【以上を通じて言いたかったこと】
強欲な金融機関が自己の利潤最大化のためにルールの中で最大限やりたい放題をやることは、いつの時代も(特に米国では)起こってきた。それが今回、これだけのおおごとになった背景には、市場のプレイヤーだけでなく、彼らに対して潤沢な資金が供給されてきた市場環境と、それを容認してきた監督当局、政治の存在があり、いわば構造的に金融危機の火種がつくられていった。
なお、仮にCDSが「発明」されていなくとも、住宅ローンがもう少し厳しく監督されていたとしても、全体としての過剰流動性と高レバレッジ体質、クレジットバブルは存在していたため、別の形でバブルがはじけていたと考える。その対象が不動産であったため、影響範囲が致命的に大きくなったが。
以上、頭の整理でした。
I might be beating a dead horse, but thank you for ptsoing this!
投稿情報: Ghaith | 2013年3 月 9日 (土) 04:05
はじめまして。
「超凡思考」きのうもきょうも近所の書店にいって探したのですが、まだなかったのでさっきamazonで注文しちゃいました。
その流れでブログにたどり着きました。
「就職と恋愛は似たようなものだ」について視点は違いますが、わたしも、同じように感じて最近自分のブログに書いたのでちょっとビックリしました。
これからも応援しております。
投稿情報: ゆっち | 2009年2 月17日 (火) 18:33
勉強になりました、ありがとうございます。
投稿情報: kawata | 2009年2 月 7日 (土) 10:12
かなり前から岩瀬さんのファンです!
今回のレビューも非常に参考になりました!
投稿情報: porco | 2009年2 月 2日 (月) 17:40
ご指摘のとおりだと思います。
CDSは今回のバブルを見えにくくし悪化させた一因であることは確かですが、クレジットバブルはCDSだけが原因で発生していたわけではなく、根底には行き過ぎた市場原理主義+長期に渡るFF金利の超低利での据え置き(グリーンスパンがブッシュ政権の再選のための措置という穿った見方もありますが)による過剰流動性+行き場を失った産油国を筆頭とする2.5兆ドルともいわれる投機マネーの集中により今までの金融危機と同じく起きるべくして起きたわけで、 いつまでFRBが実質金利マイナスのレベルで金融緩和続けられるのかわかりませんが、レーガン以降の双子の赤字を強いドルでファイナンスするということがもう今までのようには出来なくなるということなのでしょうか・・・・・・だからCHANGEなんですかね
PS
MBSで元米国野村のイ―センぺナのストーリーを思い出してしまいました。
投稿情報: 東洋 | 2009年1 月30日 (金) 16:54
<金融危機の犯人探し>
>1位 ジョセフ・カッサノAIGの金融商品事業本部長 (CDSを乱発して会社を国の管理下に追い込んだ張本人。10数年間でAIGから得た報酬は300億円を超え、責任を問われて退職した後も月額1億円強の顧問料を受け取り、議会で大問題となった人物)。
>blog.livedoor.jp/matsumototetsuzo/archives/121998.html
-----
http://blog.livedoor.jp/matsumototetsuzo/archives/121998.html (2009年01月29日 15時50分11秒)
返事を書く
投稿情報: snowbees | 2009年1 月29日 (木) 15:59
素朴な疑問なんだけど、サブライム政策は誰の発案でどの大統領から始まっているのかがよくわからない。前ブッシュ政権は国際関係にばかり力を入れて内政では、目に付くような政策や改革をしていなかったと思う。本来ならば、健康保険、年金、住宅ローンは3つセットで政策を建てようとしていそうなものだけど。結局は、国民生活に対する理解がアメリカは足りないのでは?
投稿情報: 石川 | 2009年1 月27日 (火) 19:30
低所得者の返済率も最初は高かったけれど、3~5年目以降は一気に金利が跳ね上がる様な住宅ローンを組んでいて、低利のステージが終わる度に家を売って借り換える “家ころがし”をしていたのが、住宅バブルの崩壊で行き詰ったのでしょう。日本のバブル時代の土地ころがしとダブって見えます。
投稿情報: ryota | 2009年1 月27日 (火) 17:12
住宅価格が上昇し続けていたため、少し多めに借りても資産価格の上昇によって返済できる、という(バブルに典型的な)考えを生んだ
↓
というよりそのような実態があった
↓
低所得者でも返済率が高かった。
↓
その統計を元に証券化された
↓
住宅価格の上昇が止まった
↓
ヽ( ´ー`)ノ
他はなぜ住宅価格があがったのか、さがったのかという環境要因な気がします。
投稿情報: くいっぱ | 2009年1 月27日 (火) 14:45