「現在の金融危機を招いたのは、返済能力がない人たちに、金融機関が詐欺まがいの強引な貸し付けを続けたからだ」といった説がまかり通っている(日本だけでなく、米国でも)。しかし、金融機関をスケープゴートとする俗説が事実に基づいていないことが、最近発表された論文で明らかになっている。
"Anatomy of a Train Wreck - Causes of the Mortgage Meltdown" (Stan J. Liebowitz, Oct 2008) によれば、2006年以降のデフォルト率はサブプライムかプライムかで大きな変化はなく、むしろ重要な区別は金利が固定金利ローンか、変動金利ローンかである、としている(下記のチャートをご参照)。
確かにデータを見ていると、貸し倒れの推移トレンドは上のサブプライムローンと、下の通常のローンで差はない。むしろ、サブプライムの方は2000年~2002年時点の水準とさして変わらないのに対して、プライムローンの方が際立っている。
こちらの表は、サブプライムとプライムについて、それぞれの破たん比率を固定金利ローンと変動金利ローンで分けて見たものである。緑色が変動金利、赤色が固定金利。これで分かるのは、上のサブプライムローンの表でも、固定金利ローンについては破綻が増加していないことである。むしろ、固定金利か変動金利かで破たん率が大きく異なっている。
これがどういうことを示しているか?今回の住宅ローンのバブルを招いたのは貧困層に対する無理な貸付ではなく、市場全体の融資審査基準の行き過ぎた緩和である、ということである。すなわち、長期で住むつもりの人たちは、固定金利で借りている。これに対して、短期で不動産を転売して収益を上げようと目論んだ人たちへの貸付は、頭金なしで、変動金利で組まれている。住宅価格の上昇が止まった瞬間、転売をあてにした借り入れがデフォルトし今回の危機を招いたが、それはサブプライムローンだけではなく、およそ投機目的のローン全体だったのだ。
それでは、審査基準を緩和したのは誰か?それは各行の自主的な判断ではなく、政治が強力に推進したことによる。たとえば、政府系の住宅金融機関は、融資基準の緩和を「イノベーションによる新しい住宅ローン商品」と呼び、「持ち家比率の向上」を重要な政策ミッションとして、推し進め、それをバックアップする大量の資金を供給してきた:
The GSEs have introduced a new generation of affordable, flexible, and targeted mortgages, thereby fundamentally altering the terms upon which mortgage credit was offered in the United States from the 1960s through the 1980s.
GSE(政府系住宅金融機関)は手頃な、柔軟性の高い住宅ローン商品群を市場に出すことで、1960年代から80年代にかけて米国で行われてきた住宅ローンの審査基準を抜本的に変えています。
(Fannie Maeに関する2002年レポートより)
したがって、攻めるべきは民間プレイヤーだけではなく、緩やか過ぎる融資基準を推進してきた当局、そして政治ではないか、とする。政治にとっては、国民の持家比率を拡大するという政策目標は、真っ向から否定することが難しく、幅広く支持されるものである。しかし実際にはこの政策は持ち家だけでなく、激しい住宅投機を推進したのである。
米国政府や政治家も、「強欲な金融機関」をスケープゴートにしようとしているが、本質はそれではない。メディアなどで流される、安易な通説を鵜呑みにするのではなく、実証的なデータを見ていくことではじめて物事の本質が見えてくる、ということが分かるいい例でしたのでご紹介させて頂きました。
ちなみに、この論文はサブプライムに関する米国のWikipediaサイトで見つけました。本国のサイトの充実具合、脱帽します。
(追記)最初のグラフで緑と赤でメモリが違うのは、プライムとサブプライムのデフォルト率がそもそも異なるから(だからサブプライムは金利が高い)。ポイントは絶対値ではなく、相対的な変化。あと、誤字修正しました!ご指摘ありがとうございます。
I'm so glad that the itenrnet allows free info like this!
投稿情報: Jamu | 2013年3 月10日 (日) 20:26
I'm new to blogging and I am using Tumblr. I want to make sure no one obtains my content or background images and pictures. If anyone has any suggestions I would really appreciate it. Thanks!.
投稿情報: website optimization | 2013年2 月 1日 (金) 16:56
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投稿情報: girl escort | 2012年12 月27日 (木) 18:16
サブプライムの複雑な背景は「解説編」の方で十分説明されていると思います。
投稿情報: kt | 2009年1 月28日 (水) 11:06
サブプライムの話に限らず、バブルは非常に複雑な背景で成立するものだと思いますが、新書レベルで沢山載ってますよ。上記のデータの話も、その複雑な背景の一部として記載されています。
戦争継続の支持を得るために、経済的な成功が必要で、ブッシュ政権が低金利政策等による住宅市場の活性化を促したのは、周知の話だと思います。
サブプライムは大変複雑な背景があるので、こういった短絡的な話はされないほうがいいと思いますが。
投稿情報: 通りすがり | 2009年1 月28日 (水) 04:21
>長期で済むつもりの人たちは、
長期で住むつもりの人たちは、でしょ?
投稿情報: 通りすがり | 2009年1 月27日 (火) 12:18
Stan J. Liebowitzさんは、
libertarian think tankの人みたいなので、
きっと、
「政府が余計なことをするからいかんのだ」
というスタンスでものを書くことが多いんでしょうね。
Stan J. Liebowitz is Research Fellow at the Independent Institute (以下略)
http://www.independent.org/pdf/policy_reports/2008-10-03-trainwreck.pdf
The Independent Institute is a libertarian think tank based in Oakland, California.
http://en.wikipedia.org/wiki/Independent_Institute
投稿情報: 774 | 2009年1 月27日 (火) 03:18
法律には詳しくないですが、
当局が「緩やか過ぎる融資基準」を推進した場合に、
「強欲な金融機関」はそれより厳しい融資基準を設定することは、
法で制限されているのでしょうか?
破綻する可能性があるほどのリスクテイクを、
当局から強要されるのでしょうか?
投稿情報: 774 | 2009年1 月27日 (火) 02:57
> 「現在の金融危機を招いたのは、返済能力がない人たちに、金融機関が詐欺まがいの強引な貸し付けを続けたからだ」といった説がまかり通っている(日本だけでなく、米国でも)。
そのような説がまかり通っている、というのをはじめて聞きました。
投稿情報: 774 | 2009年1 月27日 (火) 02:40
>政治が協力に推進した
「政治が強力に推進した」のtypo?
それとも「政治が協力する方向で~」とかの意?
投稿情報: あ | 2009年1 月27日 (火) 02:19
「現在の金融危機を招いたのは、返済能力がない人たちに、金融機関が詐欺まがいの強引な貸し付けを続けたからだ」
恐らくこれは、以前岩瀬さんがお書きになっていた「サブプライ危機がなぜ起こったか?」 この投稿に対する反証だと思いますが、僕は起きている事象を観察し、情報を整理した上で見解を述べました。
むしろ僕が伺いたいのは、なぜ岩瀬さんが、誰でも編集できるWikipediaに載っている信憑性の低い論文を引用し、今回の「真犯人」と結びつけたのかが分かりません。
金融機関やグリーンスパンを「犯人」と立証するような論文は見つければ多くありますし、実際、Joseph・E・ Stiglitzも同じ様な事を書いています。
僕は他人の論文の引用ではなく、「岩瀬さんの意見」が読みたいです。
以前の僕の投稿でご迷惑をおかけしたのなら誤ります。申し訳ありませんでした。
投稿情報: Makoto | 2009年1 月27日 (火) 01:11
もう一歩突っ込んで、じゃあその政治の動きに対して民間は本当に全くのシロ、ただの被害者、全くの赤の他人なのかということを米国政治の実情に照らして調査・分析してみるともう一歩深く本質が見えてくるかもしれませんね。
投稿情報: Economist | 2009年1 月26日 (月) 20:18