前エントリーで見たような経緯で公的支援が決まったAIGだが、米政府の思惑とは裏腹に、マーケットはまったく落着きを見せることがない。「次はどこか?」との憶測が憶測を呼び、「どこまで損が広がるのか」と、終わりが見えない不透明感が、事態をより悪化させている。すでに、「1930年代の大恐慌以来の最悪の危機」との評価がなされている。
当初は公的支援に否定的だった政府を動かしたものは、AIG は "too, too big to fail" だったという実情だろう。5兆ドルを超えるクレジット関連デリバティブのカウンターパーティ(引受先)として世界中の金融機関との取引が複雑に入り組んでいる同社の破たんは、世界を巻き込んだ未曾有の金融危機を巻き起こしうるとして、そのシステミックリスクは大きすぎると判断された。
しかし、この当局の一連の動きについては、いくつもの論点が提示されている。
一つは、その意思決定基準の不透明さ。ベアとファニー/フレディは救う、リーマンとメリルは救わない、AIGは救う。公的支援の対象となるか否かの基準が、民主的に選任された議会の承認を得ないまま、ポールソンとバーナンキいう個人の判断に依存してしまっていいのだろうか?
(深読みするならば、ついこないだまでゴールドマン・サックスという投資銀行のCEOだったポールソンの判断に、客観的・中立公正は担保できるのか?あるファンド関係者曰く、「AIGのスワップのカウンターパーティとして最大手のポジションを持っていたのはGS」だそうだ。)
もう一つは、民間のモラルハザードをどのように防ぐか、という点。将来のリスクテイクとインセンティブにかかわる。大きなリスクを取っていいときは巨額の利益を享受し、大きな損を出した場合には税金によって救済されるならば、将来も無謀なリスクテイクを促すだろう。
そもそもAIGのような巨大金融機関が too big / too interconnected to fail だとするなら、そのような活動を民間金融機関にやらせるべきではないのだろうか?そもそも、最初から公的な機関の運営に任せるべきではないだろうか?もちろん、イノベーションや競争のダイナミズムは損なわれるが、大き過ぎるリスクのためには、そのコストは払うべきなのかも知れない。
更に、当局の監督責任はないのか?すでに2007年半ば時点には、投資銀行は27倍近いレバレッジがかかっていたという。巨額のオフバランスの債務が開示されないまま取引されており、いわば「第二の金融システム」を作り上げるに至っていた。クリントン政権で財務次官を務めたロバート・アルトマン(1980年代にはリーマンの幹部だった)は、「現代歴史の最大の行政の失敗」と痛烈に批判している。
最後に、今後続く公的支援のコストが米国の政治経済のみならず、地政学的な立場にもたらすインパクト。Fedが「最後の貸し手」のみならず、「最後の投資家」の役割まで演ずるようになったいま、一連のbail-outがいくらのコストになるかは誰も予想できない。10兆~20兆ドルに達する可能性もあるという予測もあるが、イラク戦争を上回る財政負担がかかる結果、インフレ、為替などの影響で景気が悪化するだけでなく、米国が軍事上の独占を保つのが財政的に難しくなるかも知れない、という指摘もある。
解決策として、ボルカ―らは1989年から95年まで米貯蓄金融機関(S&L)の整理のために設立されたRTC(整理信託公社)のような時限的な機関の設立を提言している。いずれにせよ、下上のアドホックな対応では、世界中の投資家に安心を与えるようなことにはほど遠いのだろう。
ストーリー形式でとっても面白かったです。ありがとうございます。
投稿情報: satop | 2008年9 月19日 (金) 17:15
AIGの融資利率は相当高いはずですから、資産売却を余儀なくされるのは間違いないでしょう。
日本事業は健全と言われていますが、あのビジネスモデルのキャッシュフローを見積もるならばいかほどになるか…
投稿情報: チキチータ | 2008年9 月19日 (金) 12:47
岩瀬さん、こんばんは。
お久しぶりです。
私のところもリーマンの件以来、電話やメールがたくさんで大変でした(笑)
「大丈夫ですか」って?
「いやぁ、中にいるほど分からないですからとりあえず株価を見てくださいぐらいしか言えませんよ」
と、やや無責任な回答。
でもリテラシーの高い層ほどそれで済んだり。。。(笑)
リーマンとAIGの違いは単純に順番だけなのかな~(AIGが先ならそっちが飛んで、リーマンが救われた)と思ってたので
>あるファンド関係者曰く、「AIGのスワップのカウンターパーティとして最大手のポジションを持っていたのはGS」だそうだ。)
については、(関係あるかないかは別にして)勉強になりました。
ありがとうございます。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年9 月18日 (木) 22:41
>そもそもAIGのような巨大金融機関が too big / too interconnected to fail だとするなら、そのような活動を民間金融機関にやらせるべきではないのだろうか?そもそも、最初から公的な機関の運営に任せるべきではないだろうか?もちろん、イノベーションや競争のダイナミズムは損なわれるが、大き過ぎるリスクのためには、そのコストは払うべきなのかも知れない。
まったく同感です。
しかし、社会保険庁やソビエトの官庁を持ち出すまでもなく、公的機関は非効率の温床となりやすい・・・。
信用創造機能を担う機関にどこまで公が関与し、規制していくのが正しいのか。
向こう10年のテーマでしょうね。
歴史的には、レーガン以来幅を利かせていたnaiveなmarket funadamentalismは
いったん終了と思われます。
かつての計画経済やマルクス経済学と同じように、「破綻した理論に基づいて失敗した社会実験」と位置づけられるのでしょうか?
投稿情報: たに かず | 2008年9 月18日 (木) 21:06