株主総会シーズンが到来し、世の中では「もの申す株主」と会社側との対決が話題になっている。
これに対して、一部の会社を除いて、株式会社ではなく「相互会社」という形式を取る生命保険会社は「総代会」というものを開催する。今朝の日経7面では、「生保総代会 改革道半ば」という記事で、ガバナンスが利かない生保の経営構造について書いている。
中長期的に健全な成長・発展を続けるためには、どんな組織であれ、経営陣がどれだけ善意に満ちており、かつ有能であれ、チェック・アンド・バランスを、働かせることは必須である。
そして、これまでは、総代会に参加する総代は、実質的に会社側が選んできた。これでは、経営者の高い倫理感と使命感以外には、経営者によい経営をさせることを担保するメカニズムは、存在しないといえよう。
これを、立候補制にしようというのが、新しい動き。比較的進んでいる明治安田生命などは総代221人のうち、21人を立候補から選んだとのこと。これに対して、日本生命は立候補制について「検討していない」とのこと。
会社に対してものを申すべき人を、自分たちで選ぶのではなく、より広く契約者から選ぼうとする取り組みは、方向性としては正しいのだろうが、それでもなお、課題はある。
そもそも1割以下の総代は、質問をできるだけであり、役員選任や配当などについて提案をしたり決議をする実行的な力はない。その定員・割合自体は、会社側が恣意的にコントロールできる。ガバナンスは本質的に「多数の株主の意向により、人事権をはじめとした大きな経営事項を決めることができる」という「力」に根ざしているのであるから、それがない以上は、大きな抑止力にならない。
では、株式会社化したから問題が解決するかというと、そう簡単ではない。第一生命の株式会社化は大英断であると思うが、本来は「債権者」たる契約者が同時に「株主」になることには、内在的に矛盾がある。
すなわち、債権者は資本効率を気にせず、債権の安全確保のみを考える。したがって、会社としては常にたくさんのお金を内部留保して、安定して債権を弁済してくれる方が望ましい。彼らの観点からは、ソルベンシー・マージン(支払余力比率)は高ければ高いほどよい。
これに対して、株主は債務返済のリスクよりも、自分たちの資本効率を高めることを考える。したがって、ソルベンシー・マージンが高いということは、自分たちの資本を効率的に使わずに資金を眠らせていることになるので、余剰資金は配当や自己株買いで払い戻して、ソルベンシー・マージンはギリギリまで下げてくれた方がよい。
いや、考えようによっては、株主が同時に債権者であるということは、会社側にとっては、常に資本と負債のバランスのとれた議論をしてもらえるので、よいのかも知れない。逆に株主となる債権者の方は、同じ銘柄に(実質的に)お金を貸し、株を買うよりも、どっちかにして、資金を他にシフトした方がポートフォリオ的には望ましいのかもしれない。
そして、いつまでも付きまとう議論が、「生保の長期性・公共性」だろう。本質的に短期の利益のみを追求する株主が、生保の自己資金を吐き出すよう迫りはじめたら、ソルベンシー自体は危うくなるかもしれない。これに対しては、資本は無料ではなく、高いコストを伴うものであり、そのもっとも効率的な使い方を緊張感を持って迫ること自体は、保険の公共性と矛盾しない、と反論すべきだろうか。
よい週末をお過ごしください!
横レスですが、
日経読者さん、22日の日経の記事に対応する説明については、このブログの22日の記事、「ネット生保のデメリット」のコメント欄で、いろいろ書かれていますヨ。
投稿情報: crystal | 2008年6 月30日 (月) 03:30
はじめまして。
ライフネット生命が、22日の日経に取り上げられているのを見て、やってきたのですが、
「医療保険は大手より割高」
という点に驚きました。ネットでコストを削減しているはずなのに割高という意味がわかりません。「新興で情報の蓄積がないから」という説明もまた意味がわかりません。
どうして割高なのか、わかりやすく教えてもらえればありがたいのですが。
投稿情報: 日経読者 | 2008年6 月30日 (月) 01:07
セイホの経営って相対するロジックが結構入り混じって、不謹慎ですけど“おもしろい”って感じますね。
最近?よく議論されるEVそしてエコノミックキャピタルもそう。
金利リスク等ショックシナリオを受け止めきれるサープラスを持つことって結局ROE(将来的にはECがEquityの位置づけになりそうだって話なので)の低下につながるわけだし・・・でも、破綻可能性の目標を下げると格下げで有利な調達ができない・・・
リスクの前に利潤をとるべき?株主より契約者を見るべき?いろいろつきない疑問が多い世界ですね。
投稿情報: Chiquitita | 2008年6 月28日 (土) 11:08