剛速球のストレートも投げられるが、緩い変化球も投げられるピッチャーのように、戦略的思考と現場感覚、ロジックとエモーション、双方を自在に使いこなせるビジネスパーソンでありたいと、常日頃考えている。
「営業はサイエンス」(朝日新聞社)の著者である前田明氏は、このような緩急/硬軟のスキルを見事に使い分けるプロフェッショナルである。コンサルタントとして豊富な経験を積んだのちに、参天製薬、そしてジョンソン・エンド・ジョンソンの幹部として営業・マーケティングの陣頭指揮を取られてきた。
1年前に友人に紹介してもらってからは、切れ味鋭いアドバイスを頂く機会に何度か恵まれ、勝手に「マーケティングの師匠」と仰いでいる。その「師匠」が書いた本なら必ず新たな発見があるはず。そんな期待を裏切ることはなく、気に入った箇所に付箋をべたべた張りながら、読み進めていった。
本書は主に現場の営業マンを想定読者として、営業を「科学」する「72のセオリー」を掲げているが、営業マンではなく、大上段でマーケティング戦略について考える立場にある私にとっても、心に残るメッセージが散りばめられている。
本書を通じて前田氏が語り続ける、営業/マーケティング戦略の本質は、
購入してもらうための要素 = 「顧客価値」 × 「共感」
である。これを実践するために、企業としては以下の2つのステップに注力する必要がある:
ステップ1:経営の総力をあげて「顧客価値」を開発・創出する
ステップ2:その価値を顧客に理解してもらうとともに、その価値自体、あるいは会社組織、製品、ブランド、営業員などに「共感してもらう」
ここでポイントは、ロジカルな「顧客価値」とは異なり、買い手が会社・組織・ブランド・営業員などをひっくるめて、「好き」とエモーショナルに思えない限りは、購入にはつながらない、ということである。
ほとんどのマーケティング戦略の教科書は、この購入意思決定において情緒が占める割合について語ることはない。生保のマーケティングでも、左脳的な「顧客価値」と、右脳的な「共鳴」の双方を常に考えていなければならないと思っているのだが、そのバランスを取るのがなかなか難しかったりする。
前田氏はこの「共感」を英語の「レゾナンス」という言葉で表しているが、この言葉には「共鳴」というニュアンスがあり、顧客が好きになって購入していく心理プロセスを表すに、非常にしっくりくる概念である。
また、本書はこのマーケティング上のエッセンスを、顧客だけでなく広く「人を動かす」という場面にも拡張しており、
相手が動いてくれる成果 = 伝えようとするメッセージの価値 × 共感の強さ
という方程式で説明している。なるほど。正しいことを言うだけでなく、どれほど情緒的に共鳴してもらえるかは、常に重要なレバーなわけだ。
もう一つ、本書が唱える骨太で本質的なメッセージに
「考える量こそ、ビジネスの生命線」
というものがある。
ビジネスの勝負は、どれだけ必死に考えて考えて、考え抜くことができたか、で決まる。私も前田氏にこのことを指摘されて以来、「うーん、自分はまだまだできてないな」と反省し続けている(でも、なかなかできないところが、難しさなのだろうが)。
本書の72のセオリーにはこのような「戦略」だけでなく、前田氏のプロフェッショナルとしての「戦術」レベルのtipsも、豊富に盛り込まれている。例えば、「なるほどー」とうならされたのが、
追い込みの徹夜はするな、するなら初日!自分なりに100%完成と思ってからが、真の価値が生まれるのだから、ペース配分が肝心
3分考えて分からなければ、一生分からない。すぐに社内でも社外でもいいので、答えを持っている人を探し出し、相談すること!
72のセオリーのすべてが、すべての人に取ってeye-opener、「目から鱗」であることはないかも知れませんが、誰もが自分にとって「これは!」と刺激を受け、共鳴させられる考え方が、10か20か、必ず盛り込まれている。本書は、そんな点が魅力の一冊だ。
はじめましてHelterSkelterです。
岩瀬さんのブログから、
①MBAってヤバイくらい面白そう!僕も行きたい!というmotivation、
②Brad Mehldauってカッコイイ!しかもNick Drakeをカバーするとは・・というsurprise
を頂きました。感謝します。
結果、今年からChicagoGSBに留学します。ブログも立ち上げたので是非いらしてください(お恥ずかしいですが)。
*おそらく同じ頃にイギリスにいました(私の父も総合商社です)。奇遇というのはあるものですね・・・
投稿情報: Helter Skelter | 2008年4 月 5日 (土) 23:41