まだ読み終わっていないのだが、発売されたばかりの日経新聞編集委員の三宅伸吾氏の新著、「市場と法-今何が起きているのか」(日経BP社)が面白く、通勤の電車の中でむさぼるように読んでいる。
まず、カバーしている範囲が極めて広い。最初はライブドア事件、村上ファンド事件が中心なのかな、と想定していたのだが、それは第一章「市場への背信」の一部であり、この章では日興コーディアル粉飾事件もかなりの詳しさで論じられている。続く第二章の「検証・刑事司法」ではいわゆる国策捜査を中心に、検察など捜査当局の取調べの問題点を鋭く批判している。第三章の「敵対的企業買収」ではニッポン放送事件、ブルドック事件などにおける論点を改めて整理している。
さすがにここで終わるのかなと思いきや、三宅氏の筆は止まらない。第四章「ルールを創る」では公取の競争政策や住友信託とUFJの「統合破談」の事例について論じ、第五章「弁護士と法律事務所」では活動範囲を広げる企業弁護士と大型化する事務所の実態についてまとめている。第六章「裁判所と政治」では司法改革や選挙権の格差訴訟について論じ、最終章の「市場国家と法律家」では市場メカニズムが上手く機能するための条件をまとめている。「市場と法」というテーマで、わが国の社会で起こっていることを横断的に見ていっているわけだ。
次に、これだけの範囲に及ぶにもかかわらず、読んでいてまったく疲れない。むしろ、推理小説を読んでいるのに似たスピード感とスリル感を持って読み進めることができる。判決文から有識者のブログ記事、そして取材随所で専門家の生の声を取り込んだ丁寧な取材に基づく本質的で深い議論がなされており、説得力があるほか、各事件の場面がヴィヴィッドに再現されている。これは、法曹関係者・金融関係者を中心に独自の広い取材ネットワークをもち、かつみずから法学部の大学院で学び法務分野について深い造詣をもつ三宅氏ならではなせるわざか。
最後に、本書は、サブタイトルの「いま何が起きているか」のタイトルどおり、法務という観点から、大きく変化しつつあるわが国の社会を眺めた名著である。全体を通じて、金融関係者、弁護士、捜査当局、裁判所など、それぞれが担うべき役割をバランスよく議論しながら、市場の重みが増していくなかでのあるべき「法化社会」について三宅氏の見解が論じられている。法律関係者のみならず、今後、ますますグローバル化するわが国のビジネス界で活動していくすべての方にオススメしたい一冊である。
* こちらでも同書の書評が書かれています
日経新聞編集委員の方の著書に部ログ記事が引用される時代がきたかー、と感慨深く思ってしまいました。引用されるだけでもこんなに嬉しいもんなのだ、とミーハーに喜んでしまいましたよん。
投稿情報: Daisuke | 2007年11 月13日 (火) 20:34
ご紹介ありがとうございました。僕も早速購入し,早速面白く読んでいます。情報量が随分豊富ですね。
「有識者のブログ記事」に岩瀬さんの記事も入ってますよね…
投稿情報: 中山達樹 | 2007年10 月31日 (水) 23:32