本当にスティールパートナーズは「濫用的買収者」なのだろうか?
これまでの事件で、確かに彼らは「売り逃げ」に成功している。ただ、それによって守られたのは現行の経営者以外、誰なのだろう?
例えば、仮に彼らがサッポロの買収に成功したとして、資産の切り売りを行ったのだろうか?実際に彼らはそんなことはやったことがないし、資産価値よりもゴーイングコンサーンの方が実質的に価値があるに決まっているのだから、やる訳がない。本当にそんなことをやってしまったら、二度と日本で成功裏に投資はできなくなるだろうから。
恵比寿の土地をセール&リースバック(不動産会社に売却して、賃貸で借り直す)してバランスシートを軽くして、その資金で配当を払ったとして、誰が損をしたのだろうか?将来のリース払いが増えて、現在の株主にキャッシュが戻される。将来の株主から今の株主に富が移転されたのか?否、株価は将来のキャッシュフローの現在価値の総和であるから。
顧客利益のために、短期中期で株式を転売することで利益を上げることだけを目的とすることが、いけないことなのだろうか?あなたも私も含めて、ほとんどの投資家は、キャピタルゲイン狙いではなのだろうか?個々の投資家に株主利益の増大を超えた社会的な役割を担わせることが妥当なのだろうか?
大株主であれば、経営戦略に関して詳細の考えを持ち、かつそれを公開する必要があるのだろうか?所有と経営が分離された中では、経営陣を選任し、株主総会決議事項の大きい決定事項さえ決めれば足りるのではないだろうか?
メーンバンクによる株の持ち合いが解消し、経営者をモニターする役割としての銀行がなくなあったいま、誰が経営者に規律を迫る役割を担うのか?機関投資家、そして投資ファンド以外にいるのだろうか?
本来的に資本市場と会社の経営者の間には、緊張感があるべきではないのだろうか?株主が望むことは、本来的に経営者にとってuncomfortableであって当たり前なのではないか?
「従業員、取引先など多種多様な利害関係人との不可分な関係」と抽象的に言うのはいいが、それも含めて現在の経営陣に任せることが、広くステークホルダーのためになるのだろうか?企業がスリム化して国際的競争力を高めた方が、働く従業員、納入する業者にとっても、喜ばしいのではないのだろうか?現在の経営陣に任せた方が、「企業価値」は本当に高まるのだろうか?
かつての戦後経済とは異なり、資本は瞬く間に国境を越えて、より高いリターンを与えてくれるところに移動する。資本を限られたリソースとして認識し、資本効率を高めようとすることは、我が国の経済にとっても重要なことなのではないのだろうか?
遊休資産や眠っている現金預金を開放し、株主の手に返して再投資へ振り向けること、上手に低金利の借入を活かして、資本構成を適正化することは大切ではないのだろうか?
世界の大きな流れと逆行することを行い、世界中の投資家が望んでいない施策を取ることが、中長期的なグローバル経済の中で日本にどのような影響を持つか、明確な戦略・方針を持っているのだろうか?
以下、 Forbes Asiaの記事を引用:
The decision received starkly different coverage in Japan and abroad, with damning criticism in the international press and cheers from Japanese business newspapers such as the Nikkei, which hailed it as a proof of the “market mechanism” at work and that “shareholders should determine by majority vote who will run a company and how operations will be carried out.”
Foreign investors have flocked into Japan in the past few years, seeing compelling values in companies whose shares had largely languished for more than a decade after the bursting of Japan’s bubble economy in 1990.
However, their efforts to convince companies to make more efficient use of capital and raise dividends have largely come to naught.
Hundreds of Japanese companies have taken steps to block takeover attempts and quiet activist investors.
The court’s decision in the Bull-Dog case squares with a problem that has long plagued Japanese society and other emerging democracies alike — that a majority opinion can impose violence on a small minority.
いつも楽しく読ませて頂いております。
今回の件色んな論点がありますが、際立って感じるのが経営陣のレベルの低さでした。
事業がわからないのに経営できるわけない、という本件やブルドックでよく使われる経営陣側のディフェンスですが、資本と経営の分離の理解がないのは言わずもがな、経営とは何かということすら理解していない気がします。
分かりやすい一例としては、IBMを建て直したのは誰でしょうか。RJRナビスコのCEOは果たしてメーンフレーム/PC事業をIBMのCEO就任前から理解していたのでしょうか。
もちろん、取締役/経営陣は株主のエージェントな訳で、株主が事業を理解する必要がないのは常識過ぎて議論する気にもなれないのですが。。。
司法、メディア、国民、株主、経営陣のファイナンス・リテラシーの低さが長期的に日本の競争力や魅力を確実にそいでいく、というシナリオにはなっていって欲しくないものです。
投稿情報: SS | 2007年7 月12日 (木) 23:15
いつも楽しく拝読させていただいています。
今回のエントリーには大変教官を覚えました。
高裁決定の「投資ファンという組織の性格上、当然に顧客利益優先の受託責任を負い、成功報酬の動機付けに支えられ、それを最優先にして行動する法人であり、買収対象企業についても、対象企業の経営には特に関心を示したり、関与したりすることもなく、当該会社の株式を取得後、経営陣による買収を求める一方で突然株式の公開買付けの手続に出るなど、様々な策を弄して、もっぱら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようとし、最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れてひたすら自己の利益を追求しようとする存在といわざるを得ない。」というくだりには愕然としました。
価値判断の前提としている価値そのものの考え方が私の理解とはかなりかけ離れているようです。
投稿情報: ky | 2007年7 月12日 (木) 22:02
今回のケースはスチールにも現金を払ったことと、株主総会で8割賛成とったことから裁判所の判断は妥当ですね(裁判所があそこまで踏み込んだコメントをするべきかどうかは別にして)。
スチールは日本の法体制というよりも、8割の賛成票を投じた「日本人」のメンタリティを理解すべきであったと思います。彼らがやろうとしていたことが真っ当でも、それが相手に理解されない&信じてもらえないのでは意味無いですからね。
電力会社に投資してきたチルドレン何とかいうのも色々理屈づけてはいますが(またそれは「教科書」的にとっても正しいのですが)要は配当出して株価上げろと言っているだけで、本当に「長期」(発電所1個作るのに10年20年かかる業界で、自分たちの投資期間があるくせに長期で持つわけがない)で企業価値が向上するというのなら、バークシャーのようなスタイルで投資しないと無理だと思います。
最近の状況を見ていると、単に日本がアービトラージで割安だった期間が終わり、欧米から見ると極めて特殊な日本の風土(欧米でトヨタ自動車は絶対に生まれない:トヨタの役員報酬の額をご存じ?)を理解してそこを踏まえた上で何らかの価値を持ち込むというのではないと、もうファイナンスの教科書だけでリターンが取れる状況ではないですね。
投稿情報: penpen | 2007年7 月12日 (木) 11:31
>「従業員、取引先など多種多様な利害関係人との不可分な関係」と抽象的に言うのはいいが、それも含めて現在の経営陣に任せることが、広くステークホルダーのためになるのだろうか?
商売を始めるときどうしますか?
ご近所さんに挨拶に行って、銀行にもお礼に行き、お客さんに感謝し、従業員の皆さんにも感謝しつつその代わりに安定した生活を提供する責任を背負って。。
本来会社ってそういうものかもしれません。もっともこれを言うとフィナンシャルバイヤー自体が否定されてしまいかねませんが。
投稿情報: MBA | 2007年7 月12日 (木) 11:04
重要なイベントと思いますので、その他メディア(FT&NikkeiCNBC)の記事も投稿します。
Steel Partners to take Bull-Dog case higher
By Jonathan Soble in Tokyo
Published: July 10 2007 17:29 | Last updated: July 10 2007 17:29
Steel Partners Tuesday said it would take its fight with Bull-Dog Sauce to Japan’s supreme court, a day after the high court approved a “poison pill” defence against the US hedge fund.
The fund had sought an injunction against a planned rights issue by Bull-Dog that would cut its ownership stake from 10.5 per cent to less than 3 per cent.
The Tokyo high court ruled on Monday that Steel Partners was an “abusive acquirer” and denied its request for an injunction against Bull-Dog’s plan.
Bull-Dog said it would on Wednesday proceed with its scheme to issue rights for the new shares.
Lawyers said Steel Partners faced long odds if it was to engage the supreme court, which must first agree to hear its case – something that is not guaranteed. The supreme court would then require a compelling reason to overturn the high court’s ruling.
People involved in the dispute said they expected the supreme court to decide in about a week whether it would let Steel Partners proceed.
Warren Lichtenstein, Steel Partners’ chief executive, said: “We feel we have no choice but to appeal to the supreme court of Japan as Bull-Dog Sauce’s actions breach the principles of shareholder equality.”
He rejected the high court’s characterisation of the fund as a predatory investor seeking to make a quick profit at the expense of Bull-Dog’s long-term interests.
Activist investors, many of them foreign funds, have pushed for shareholder-friendly changes at a series of Japanese companies.
Steel Partners launched a tender bid for Bull-Dog over management objections in May.
The offer now stands at Y1,700 a share, more than twice the stock’s market price.
Copyright The Financial Times Limited 2007
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ファンド 招かざる株主か? [直井 敦]
今年の株主総会は「じっくり型」が多かった。6月24日、日曜日に開催したブルドックソース株主総会も、3時間に及んだ。アメリカの投資ファンド、スティール・パートナーズがかけたTOB(株式公開買い付け)への買収防衛策の発動は、株主の8割超の賛成票を得て可決された。スティール側は当然不満だ。法廷闘争でも完敗。嵐が過ぎてなお、彼らの真意を読みかねている市場関係者も多い。ヒントを探るため、時計の針を少し戻そう。事実上、彼らが始めて世の中に登場した記者会見は、6月12日に都内で開かれた
唐突に開かれた感もあるが、兆しはあった。2月23日、日本経済新聞を初めとする主要メディアに、スティールの日本法人代表がいっせいに登場した。このときは前日に、丸1日かけて個別の取材に応じている。関係者によると「あまりにも理解されていないことに、苛立ちと危機感を感じた」のが背景だったという。
だが、その報道ぶりも代表のウォレン・リヒテンシュタイン氏はお気に召さなかったようだ。当時はサッポロビールとの攻防が注目を集めていたが、「価格しだいで売却も」といったトーンの報道が目立った。リヒテンシュタイン氏にとって「理解されていない」状況はなんら変わらず、本人自身が表舞台に出ざるを得なくなったようだ。
5月21日号の「日経ビジネス」には、ニューヨークで取材を受けたリヒテンシュタイン氏が顔写真入りで掲載された。「(株価を吊り上げて売り抜ける)グリーンメーラーとは見当違いもいいところ」、「基本は長期投資」、「運用資産は世界で70億ドル、そのうち半分以上の40億ドルが日本への投資」といった内容だった。顔写真だけでも騒ぎになるスティール。実物が姿を表すとなれば会場がご覧のような混雑振りになるのも当然だろう。
「日本の買収防衛策は世界でも最悪」
「われわれは敵ではない。経営陣の味方だ」
「効率的な資産構成とはどういうものか、日本で啓蒙、教育したい」
率直で、ある意味で挑発的な会見に、日本の取材陣の多くがいらだったようだ。日本市場で理解されるために会見を開いたのだとしたら、もくろみは失敗したのだろう。そして株主総会を乗り越えて、ファンドに狙われた企業の経営陣はほっと一息というところか。
スティールは2002年に日本でファンドを立ち上げている。2006年には「チャイナアクセス」というファンドで中国に進出した。スティールに限らず、日本に乗り込んできたファンド勢が、ついに「日本文化」になじめず、中国などアジアの別の地域に行ってしまう可能性もあるのかもしれない。だが残った日本市場は、ものすごく価値の低い市場になってしまう気がする。
投稿情報: Buchimika | 2007年7 月11日 (水) 22:11
最近になって、この件すこーしだけ調べたり考えたりしました。
そして、先日ブルドックの有価証券報告書を読んだんですね。
そしたら、なんと約100億の有価証券を持っているじゃないですか。
(しかも銀行とか昭栄とか養命酒とか・・・わけわからん)
そんなお金余ってるのなら自社株買いとか配当で株主還元して欲しいところ。
株主価値を破壊してるのは、現経営陣なんじゃ・・・?
P.S.
話し変わりますが、生保の免許はとれそうですか?
応援してますョ
投稿情報: ちゃま☆STYLE | 2007年7 月11日 (水) 19:00
私がファンである 経沢社長とお友達になられたんですね♪ということはそのうち 渋谷で働く社長とか オイシックスさんとも仲良しになられるのでしょうか。
投稿情報: kk | 2007年7 月11日 (水) 18:20