保険会社には、「保険計理人(アクチュアリー)」と呼ばれる「保険数理」の
専門家が必要である。
彼らは、高度な数学技術を活かして、保険料と責任準備金積立の計算を行うこ
とを職務としている、プロ中のプロ。
一説によると、保険計理人の資格試験は、日本でもっとも難しい試験であるそ
うだ。日本アクチュアリー会に登録している正会員の数は、わずか1,000名強。
司法試験よりも難しいんだって。
新しく生命保険会社を創ろうとする場合でも、まずはこのアクチュアリーを確
保しなければならない。果たして、彼らのようなプロ中のプロが、我々のよう
なベンチャーに参加してくれるのだろうか。
そんなことを考えはじめていた7月8日の土曜、夕方に一通のメールが届いた:
『1つ朗報あり。とても良いアクチュアリーをゲット。出口』
いまはすっかり慣れてしまった、出口独特のあっさりとしたメール口調で伝え
られていたそのアクチュアリーこそが、もう1人の副社長、野上憲一だった。
野上は日本生命アクチュアリー部門出身。36歳の若さでチューリッヒ生命の日
本法人の初代代表に就任し、わが国で初めての生命保険の通信販売を立上げた。
出口との付き合いは、20年以上になる。
退任後は4人の子どもと奥さんを連れて地元大阪は河内長野市に戻り、弁護士
になろうとロースクールに通い始めていた。
出口がどのようにして野上を口説き、再び東京へ出てくるよう口説いたかは、
最近の朝日新聞記事でドラマチックに述べられている:
『保険会社に欠かせないのがアクチュアリーだ。出口の頭に真っ先に浮かん
だ顔が野上だった。
七夕の夜、2人は大阪・心斎橋の中華料理店で向かい合った。「全く新
しい顧客志向の生保会社をつくりたい。手伝ってくれませんか」。出口の
熱心な勧めに、野上はうなずいた。』
(出所:朝日新聞2007年3月23日12面より)
このやり取りを出口に確認したところ、実際には以下のようだったとのこと:
『出口: 全く新しい顧客志向の生保会社をつくりたいんや。おまえ、一回
大阪に引っ込んでしまったのに悪いけど、東京に出て来て手伝っ
てくれへんか。
野上: あぁ、いいですよー。
出口: ありがとう、すまんな。』
ずいぶんと、あっさりした二人です。
さて、そんな野上にはじめて会ったのが、2006年8月10日。午前中の飛行機で、昼前に大阪に到着。待ち合わせ場所は、ヒルトンホテルのロビー。予想していたよりも大柄の男が、そこに座っていた。 → こんな感じ
日本一美味いうどん屋で軽く昼飯でも食べよか、と出口に連れて行かれたのが、地下街にある「梅田はがくれ」。12時前なのに、店の前には既に行列ができていた。
野上は初対面ということもあって、口数少ない。三人並んでカウンターに座ったが、ゆっくり話すこともなく、「うどんは刺身です」と書かれた店長の
言葉を見ながら、一気にかき込んだ。
食べ終わると、出口の古い友人である弁護士の法律事務所に向かった。今日は
ここの会議室を借りて、3人ではじめての作戦会議だ。
パーティション越しで事務のおばさんの声が聞こえてくるなか、3時間ほど、
熱く語りあった。8月の大阪は、蝉の鳴き声が似合う。野上はチューリッヒ立
上げの際に苦労をしたようで、僕らが描く事業計画を、手厳しく評価していく。
途中から、「この人、ネット生保はうまく行かないと思っているんじゃない
の?」と心配になってしまった。
そうしてあっという間に時間が過ぎていく。最後に、出口が聞いた。
『野上、ホンネで言ってくれ。これ、初年度どれくらい売上いくと思う?』
厳しい回答を予想して、ボクは返事を待っていた。野上は少し考えて、ニヤリ
としながら答えた。
『100億は行くんちゃいますか。そこから先は、運次第です。』
100億!ずっと厳しいことを言っていた彼の口から、そんな数字は期待してい
なかった。
実際にそんなに行くかどうかは分からないし、数字はざっくりのものだ。それ
でも、彼がこの事業にホンキであることは、確認できた。ボクは、一見ぶっき
らぼうだが、どこか人なつっこさを持った彼のことが、好きになりはじめてい
た。
(第三回へつづく)
* ネットライフ企画ホームページ オープンしました!
ドキュメント『セイホ2.0誕生秘話』連載中の メルマガ登録 お願いします!
はじめまして、いつも拝読しています。
『セイホ2.0誕生秘話』は、とても楽しく興味深い話ですね。今後も楽しみしています。
志ある会社が大きく発展していくことを心からお祈りしています。
投稿情報: satoru | 2007年5 月16日 (水) 09:31
毎回欠かさず拝見しております。実はファンです。そして初めてコメント投稿させていただきます。岩瀬さんを知ったのは淡島通りのドマーニを検索中に・・・。ふっと思い出し、あの店どうなった?で、同じようなコメントを拝見して、そのまま引き込まれました。今MBA留学記たのしく拝読しています。今後も会社の将来を楽しみにしています。がんばってください。
雑用係が必要なときは、ぜひよろしくお願いします。
投稿情報: yu | 2007年5 月14日 (月) 12:00
岩瀬さん、(岩瀬さんなら当然ですが)やっぱり文才ありますね。すごく引き込まれます。
それにしても、ネットライフのお三方、岩瀬さん、出口さん、野上さん、それぞれ過ごしてきた環境も違えば、雰囲気も違っていて、何だかそのままドラマに出来そうなキャストですよね。
実力派の経営者、実績あるアクチュアリー、そして何よりそのまま漫画の主人公になれそうな若きスーパーエリート。
いやぁ、絵になる企業ですね。
投稿情報: 一ファン | 2007年5 月12日 (土) 22:02