暖かくなったと思ったら、急に冷え込んだりと、不安定な天候が続いていましたが、今日からようやく春らしくなっていくのだろうか。朝、駅までの自転車通勤が心地よくなってきた。
そんな金曜の午後に相応しい話題かは自信がないものの、今日は「三角合併解禁に反対」とあえて主張してみたい。大まかに言うと、議論の対立構図は
・ 「経済・金融通の人は、企業経営者に規律を迫る効果に着目して解禁に賛成」
・ 「怠慢で保身に走る企業経営者・経団連は解禁に抵抗
というような印象を受けている。僕は(まだ)保身に走る企業経営者にはなれていないのだが、ここではあえて解禁に反対してみたい。
理由は、以下のような保護主義的観点から:
- これまで時価総額を高める経営をしてきて来なかった日本企業は、結果的に米国の類似企業と相対的に時価総額が低い。これをキャッチアップして、米国水準に合わせて行くには時間がかかる。
- にも関わらず、すぐに株式を使った買収(これは買収企業からすると、オールキャッシュのオファーと比べて買収失敗のリスクが低くなる)を認めるならば、日本のマーケットは米国企業の草刈場となる可能性がある。
ところで、時価総額の世界ランキングを見たことがある人は、どれくらいいるだろうか?手元にあるのは少し古いデータなのだが、2005年度12月末時点の世界時価総額トップ100の企業の内訳:
- 米国:60+社
- 日本:7社(トヨタ、三菱UFJ、みずほFG、NTTドコモ、三井住友F、NTT、ホンダ)
あるいは、米国株式市場と日本の株式市場の時価総額の違い(ネットから引っ張ってきたので正確性は担保しないが、大まかな傾向は正しいと考える):
- NYSE:約1,500兆円
- Nasdaq:約400兆円
- 東証:約350兆円
日本のGDPが約500兆円に対して、米国のGDPは12.5兆ドル(1ドル=120円換算だと1500兆円、100円換算だと1250兆円)なので、2.5倍~3倍。これに対して、時価総額は約5倍の差がついているのだ。
これは、「真の実力(曖昧な定義だが・・・)」が5倍というわけではなく、「時価総額という指標で図るゲーム」の中での実力が5倍ということ。同じような事業をやっていても、よりフリーキャッシュフローが出やすいのような戦略を取り、資本効率を高めるような財務リストラクチャリングをやっていかないと、時価総額では圧倒的な差がつき続ける。
米国ではこれを指標に20年くらい経営されてきたのだが、わが国では企業経営者が本気で株主利益を考え始めたのは、ほんの数年。だから、新しい「株主利益を最大化する」というルールのもとでの経営が定着するまでは「下駄をはかせる」必要があると考える。
これに対しては、「本当にTOBやりたいなら今でもキャッシュオファーでできるし、クロスボーダーのM&Aで株式を使うと買収企業に売り・下げ圧力が働くので、好まないはず」という反論がある。しかし、先に書いたようにキャッシュオファーと株式交換では、会社からみたリスクが違う(株で払っておけば、対象会社の価値が下がったときは自分の価値も下がるのである程度ヘッジが効いている)。
また、外国人株主の保有割合が4割近くに迫ろうとしている現実にかんがみると、価格で魅力的なオファーを出してくれれば、合理的に売却してしまう株主は予想以上に増えている、と理解すべきだ。「敵対的買収されても大丈夫」と思っているのは、昨今のアクティビストファンドの動きから何も学んでいない人だけだ。
先日、超・著名なIT企業の社長の方のお話を聞いていたのだが、「日本には技術はいいIT企業がたくさんあり、米国企業はチャンスを狙っている。三角合併解禁後は、日本は米国企業の草刈場になると思う」というようなことを話されていた。
今の資本市場における米国企業の圧倒的な強みは、怖くさえある。気がついたら、多くの優良企業が米国企業の子会社とだからこそ、戦後、わが国が自動車産業を育てるために保護主義的政策を取ったのと同じように、わが国の資本市場を本当にグローバル競争に門戸開放するのは、ある程度は彼らと戦えるようにしてから、とするのが国策としてはおトクだと考える。
ハーバードMBA留学で、米国的資本主義のあり方に疑問を抱くようになった 岩瀬でした
Have a happy weekend!
はじめまして。いつも楽し
く読ませてもらっています。
東証の時価総額についての記述ですが、日経の19面の「主要指標」を見るとわかりますが、東証の時価総額は現在約550兆円
です。
細かい点を指摘するような気がして、投稿しようか迷ったのですが、マーケットを見る者としては200兆の違いは大事なので指摘させていただきました。気を悪くしてしまわれたらすみません。
ちなみにNYSE、NASDAQの時価総額はそのぐらいだったはずです。バブル期は東証がNYSEを上回っていたのに、いつの間にかなり差がついてしまっているんですね。
日本の金融がもっと活性化するという意味でも、ネット生保の活動は応援しています、頑張って下さい!
投稿情報: Daichi | 2007年4 月23日 (月) 22:42
はじめまして。
米国で会計を勉強している学生です。毎回更新を楽しみに見させていただいております。
この意見に対してまして、私はものすごく賛成です。実質、日本の企業が米企業にのっとられる日も近いのではと考えておりました。たしかに国策としては、ある程度戦える程度にしてから市場を広げるのが理想かと思われます。米国企業だけではなく、いつしか韓国、インドの会社にでものっとられてしまう日もくるかもしれません。。。
それだけ日本の市場を開放するということは日本の誇りさえなくなってしまうということかもしれません・・・・
でも答えを出すことはなかなか難しいですね。いいのか悪いのかなど時間がたたないとわからなくて、はっと気付いてからでは遅かったりするんですものね・・・
長文失礼いたしました。
投稿情報: Topraner | 2007年4 月22日 (日) 14:12
岩瀬さんは下記のURLについてどう思われますか?
http://blog.mag2.com/m/log/0000154606/108440369.html
投稿情報: trick | 2007年4 月22日 (日) 08:43
おはようございます。
岩瀬さんが『三角合併解禁に反対』とは意外ですね。
短期的には荒れることになると思いますが長期的には良い(最善)方向に向かうのではないのでしょうか。
被買収企業数が、ある一定以上の水準になれば国内が保護主義的なると思いますし。
国益として重要な企業(知名度ではなく、軍需応用等の技術を持った企業)の買収には大反対ですけどね。
『良薬口に苦し』結局、多少(?)荒れなければこの国の経営者は本当に変わろうと思わないと思います。
株式市場の指数だけを見ても、この国の企業のポテンシャルはまだまだこんなものじゃないと思いますよ。
三角合併解禁大賛成の金融(ネット証券)よりでした。 ではまた。。。
投稿情報: takksnow | 2007年4 月21日 (土) 08:31