週末スペシャルということで、ファイナンスのお勉強。技術論に興味のない方は、読み飛ばしてください。
今朝の日経新聞で、(週刊誌などの「お宝銘柄探し!」などの議論で参照されている)「M&Aレシオ」なる概念の説明が載っていた。業界で使っているのを聞いたことがなかったので、これまで気にしたことがなかったのだが、はじめて読んでみた。
感想: 「は?何それ?」
というのは、ファイナンスの基本理論から考えて、なんだかおかしいのです。
一応定義としては、
M&Aレシオ = (時価総額×50%-現預金) / EBITDA
とのことなのだが、
- 分母は「株主+債権者」に帰属するキャッシュフロー
- 分子の「時価総額」は株主に帰属するキャッシュフロー
なので整合性が取れていない。
これは投資銀行やファンドの面接の一番最初に聞かれる基本事項なのだが、金利・税払い後の株主へのキャッシュフロー と、 利払い前の債権者+株主へ帰属するキャッシュフロー (unlevered free cash flow)をきちんと分けて考えなければならない。これが分かっていない人は、即不合格。
企業評価でマルチプル(倍率)を見る際も、
- Enterprise Value (企業価値) ÷ Unlevered Free Cash Flow かEBITDA
- Equity Value (株主価値) ÷ Free Cash Flow か 純利益
といったように分けるように。したがって、M&Aレシオだと資本構成が正しく考慮されていないことになる。(同じM&Aレシオでも、無借金の会社と大きな負債を抱えた会社では意味合いがまったく異なる)。(ちなみに、英語では日本のように「企業価値を高める」とは余り言わない。あくまで、「株主価値を高める」という。ここでも、日米では微妙にニュアンスが違うように思える)
もう一つ言うと、時価総額×50%の意味合いがよく分からない。一応「経営権を取得する買収のために必要な資金」ということなのだが、51%の議決権を持っているから会社の現預金を自分のものにできるわけではない。これも、資本構成の問題と同じだが。
先日の新興企業IPOのエントリーでも書いたが、このようにファイナンス理論から見ると不思議なことがはびこっているのが、日本の資本市場。理論を知っているから直ちにお金を儲けることができるとは思わないが、理論を理解していないと、中長期的に誤った判断をする可能性が高くなるとは思う。まぁ、「M&Aレシオ」は企業価値評価の指標ではなく、あくまでイベントが発生する可能性を見ようとしているものである、と割り切ればいいのかも知れないが。
私は、「M&Aレシオ = (時価総額×50%-現預金) / FCF」と習ったのですが、分母に何が来るかは、いろいろな考え方があるのでしょうか?また、本来分子に「+借入金」が来るのですが、ビジネスはOn Goingで続いていくものだから返さないものとし、式にも含めないが、債権者に帰属するキャッシュフロー的な意味合いも持たせている、という理解だったのですが、どうなのでしょう???
自分でも自信を持ってるわけではないので、間違っていたら解説していただければ幸いです。
投稿情報: あげあげ | 2007年1 月20日 (土) 02:20
投資銀行の現場にいる者です。M&Aレシオという概念は現場で使われることは稀ですね(資料中にあるのを見たことはありますが、多分そういうのに詳しいクライアントのニーズに合わせて入れたのではないかと…)。
新聞でも、M&Aレシオなんてマイナーな指標を取り上げるよりEV/EBITDAとかP/Eとかその違いとかをわかりやすく説明してくれたほうがいいと思うんですけどね。
投稿情報: yoshihide76 | 2007年1 月16日 (火) 01:10
いつも楽しく見させて頂いております。投資銀行のものではありませんが、私も違和感をもって記事を読んでいたので誰か自分と同じように思っていないものかと探していたところです。
でもこれ見て投資決める人もいるのではないかと心配です。そういった人達が結果オーライであるといいのですが・・・。
投稿情報: alternativetimes | 2007年1 月15日 (月) 00:29
そうですよね、基本中の基本であるはずのことですよね。
企業価値と株主価値の違いも理解されないままにこうした議論が行われているのは、資本市場の未成熟さを表していると思います。
投稿情報: アオヤギナオキ | 2007年1 月14日 (日) 20:32