久々に、「業界系」のブログに目を通していたら、ニューヨーク時代のお友達の47thセンセイとHarryがバイアウト関連の話題で盛り上がっている。ここのところは、すっかり「隠居」の身で、かようなエキサイティングな話題は静観することにしていたのだが、来月から某大手ビジネス系雑誌のオンライン版で連載を始めることになったので、リハビリもかねて、参戦することに。
自分なりに関心をもった論点は二つ:
・ なぜ、従来は避けられてきたハイテク系企業のバイアウトが増えてきたか?
・ 経営者にとって、非上場化によって株主からの経営モニタリングはどのように変わるか?
(なお、これまでの議論については、ウォールストリート日記をご参照)。
最初のポイントの答えはいたって簡単で、「カネ余りの過剰流動性」がすべての要因と考える。すなわち、
① 収益のボラティリティが高い事業をスピンオフする売り手側のニーズは、以前から存在してきたが、これまでは事業会社を除いては、買い手がいなかった。
② ここ何年もの間で、世界中の機関投資家の資金が流入し、巨大化したバイアウトファンドは、集めた資金をどんどん投資していかなければならず、従来はそのボラティリティゆえ避けてきたセクターであっても、もはや避けることはできなくなっている。そこで、ハイテク系事業の買い手として、バイアウトファンドが台頭した。そこそこの規模の案件で、リスクとリターンが見合うのであれば、投資をしない理由はない。
③ また、買収を実行する際にはバブルに近い水準でデットをつけることができるため(銀行もカネ余りで困っている)、これによってリスクに見合った高いリターンを狙うことができ、ハイテク系企業のバイアウトも採算が取れるようになった。
④ 経営者側も、バイアウトに参加することによって巨額の富を築くという願望自体は、1980年代から変わらないが(RJRナビスコの貪欲な経営者を思い出されたい)、上記の事情によって、資本を拠出するスポンサーがついたことが、これまでと異なる点だと考える。
⑤ おまけでいえば、従来はVCやGrowth capital系を取り扱ってきた西海岸系のPEファームが、同じように規模が大きくなり、バイアウトにも参画するようになったことがあげられる。KKR、Blackstoneらからしても、Silver Lakeのような技術に詳しいファンドが加わることによって、ある程度リスクがコントロールできると考えるのだろう。
次に、より一般的な非上場化を目指す理由としての株主による経営モニタリングの変化については、以下のように考える。
かつてのBusinessweekの記事で、元IBMにガースナーが述べていた次の趣旨の言葉が印象に残ってる。「ウォールストリートが求める四半期毎の決算は行き過ぎており、正直言って意味がないと思う。自分がもう一度経営者をやるのであれば、未上場企業の経営者をやりたい」。ご存知のようにガースナーはカーライルの会長の座にあるのだが、これは単なるポジショントークとしてシニカルに聞くよりも、長年、上場企業のトップ経営者として君臨してきたものの経験談として聞く方が含蓄深い。
この点、Harryらは「非上場化したら経営モニタリングが緩くなると考えるのは甘い。天下のKKRやBlackstoneらであれば、一般株主よりもびしばし厳しくやるのでは。」といった趣旨のコメントをしている。これはその通りである。しかし思うに、非上場化を望む経営者が求めているのは、「経営モニタリングが緩くなること」ではなく、「きちんと話が通じる株主を相手に、「まともな」経営を行なう体制が取れること」であると思う。
経営者は(少なくともバイアウト直後であれば)ファンドがendorseした人間であるか、あるいは、自分が「ウマが合う」ファンドを選ぶことができる。彼らの狙いは、多くの場合は2~3年後により会社をきれいにして上場することであり、それに向けた経営施策について合意し、それを執行していく。担当者レベルではCFOとはほぼ毎日コミュニケーションを取っているからサプライズはないし、市場に向けて発表する内容よりももっと詳細かつ本質的な内容を月次の取締役会で議論している。きちんと説明さえされていれば、次の四半期に利益をバジェットよりも1セント上回ろうが下回ろうが、どうでもいい。
銀行らによるモニタリングについても述べられているが、基本的に銀行への資料提出は形式的なものに過ぎず、かつコベナンツさえ遵守していれば、バンクはどうこう言ってくることはない。そのコベナンツの算式も、ほとんどの場合は「ノイズ」が少ない指標(rolling 4 quarters EBITDAなど)で定義されているから、短期的な利益のブレによる歪みを心配する必要がない。
つまりボクが言いたいことは、中期的な企業価値創造のためのモニタリングの担い手としては、パブリックインベスターよりも、PE投資家の方が優れているということだ。
これについては、投資銀行からヘッジファンドに移籍したHarryなどは異論があるかもしれない。もちろん、「まともな」機関投資家であれば、きちんと中期的な経営目標を共有し、それに向けた進捗をきちんと語ることで、経営を支持してもらえる。しかし残念ながら、マーケットを動かすのはこのような投資家たちではなく、近視眼的に(=次のクオーター)、分かりやすい形での結果(=コンセンサスに勝つ)を求める投資家たちであり(これだからこそ、逆バリする「まともな」投資家たちは儲けることができる)、「話せる投資家」というのは意外と少ないものである。投資家と30分刻みのミーティングをする経営者からすれば、事業の本質的な戦略を語り合える投資家はありがたい話相手であり、自分が財務モデルを組むための細かい前提条件を聞きだそうとばかりしているアナリストは、うっとおしいだけの相手である。お客様だから丁寧に扱うけど、ね。
また、バイアウトファンドのなかでも、買収直後に再上場させたり配当を吐き出させたりと、短期的な利益を求めるものが多いこともよく理解している。それでもなおボクが上記のように考えるのは、自分自身がバイアウトファンドにいた頃に経営者と何度となく経営を議論して過ごした時間と、多くの場合は「株価当てゲーム」に収束するところの公開株投資の世界との間では、その「深み」において驚くほどの差を感じたからであり、ガースナー自身の言葉も、それを裏付けていると考えるからだ。
日本では経営者はそこまで市場を重視していないからいいが、いまのウォールストリートは本当に行き過ぎている。四半期毎の決算で、利益が市場コンセンサスよりも数セント買った負けたでマーケットは動く。それくらいの数字なら、CFOの気持ち次第でいかようにもできるのに。そして、経営者やCFOの仕事は、もっとも大切なお客様たる投資家の対応がほとんどになってしまっている。自分がかような立場にあったら、そんなノイズからは離れて自分が本当に正しいと信じる経営を行なうことができて、ついでに数10億円がポケットに入るならば、Going Privateという道を取らない手はないと考えるが。
機関投資家の大部分は、近視眼的でまともな議論が出来ないという点は同意過ぎるほど同意。まともな投資家見つけて企業価値を上げようというのも良い話。
だけれども、それが金になるには
本質価値>時価総額という状況をが必要条件。
世の中には逆の状況(本質価値<時価総額)もあるし、優れた経営者ってその状況を活用しているもんだよね。
正しい経営をしようと思ってうごいている人もいるけれど、数十億ドルをポケットに入れることだけを目的にするならば目端の利かない投資家の皆さんどうもありがとうってとこでしょう。
といったところがPEの人とヘッジファンドの人の視点の違いかな?
投稿情報: Int | 2006年10 月 9日 (月) 01:19
久々にためになるのをありがとう。こういうのを待ってましたっ!
どんどん書いてね
投稿情報: こーちゃん | 2006年9 月30日 (土) 12:31