8月28日のFT、Analysis面。米国の年金基金が肥大化するPEの重要な資金供給源になっている話。冒頭はペンシルヴァニア州の運用担当者が忙しすぎてヘンリー・クラヴィスの面談を断る、という話から始まり、記事を通じて地味な公務員が華やかなウォール街の雄たちに対して高い位置に立つというミスマッチが面白く書かれている。
記事で述べられているポイントは、①これまでPEに投資してきた年金基金は非常に高い利回りを享受することができたが、今後はこのようなリターンは期待できないこと、②運用経験が浅い担当者が多いため、PEなどに特有のリスクの高さと相まって公的な資金が非常に高いリスクにさらされていること、③大手のPEファンドは昔からつきあいのある一部の基金からしか受け入れず「一見お断り」となっているため、これからやろうとしている基金は実績が少ないファンドに投資せざるをえず、ここでもリスクが高まっていること、④基金の公的な性格ゆえ高い報酬を払えないため、運用担当者として優秀な人材を雇えないこと、といったところ。
公的な基金をどのように運用していくかという点は、わが国においても今後非常に重要になってくる。数100兆円規模の資金であれば、運用利回りが数%違うだけで国富に大きな影響を及ぼしてくる。指摘したいポイントは二つ。
まず、投資の世界は公的な存在であるからといって何らかのハンデをもらえるものではない以上、ファンドマネージャーにはトップクラスの人材を、競争力のある報酬を提示して連れてこなければならない。運用経験も、アカウンタビリティもない公務員に任せて投資の運用機会を逃したというのは、国民にとって大きな損失にほかならない。誰よりも高いリターンを出せるのなら、何10億円でも払えばいいじゃない。これまでの例で、本当に市場で競争力のある人が政府機関に移籍したのは見たことがない。申し訳ないのですが、ほとんどは民間でぱっとしなかった人ばかり。
もう一つは、ALM (asset liability management)の観点からのきちんとしたリスク管理。年金であれば負債はfixed incomeであるのだから、資産サイドも株などで運用してはいけません。基本は債権と、あとはオルタナティブ商品を交えてボラティリティを抑えつつきちんとしたリターンを狙っていくべき。リターンは論じる際には常にリスクもあわせて論じなければならないわけだ。(なお、HBSのマートン教授によれば、PE/VCだって会計的にmark-to-marketしないだけで、真の事業面のエコノミクスから考えたら、これらのリスクもは公開株とリスクは変わらないとのこと。それも一理ある。)
政府内で国有資産の整理と運用に関する議論がされているそうだが、この二つのポイントについては、学者や審議会好きの民間人でなく、普段は表に出てきてくれない、本当のクロウトを招聘して論じてもらいたいものだ。
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