年に一冊くらい、自分のビジネスを考えていく上でずっと役に立つ、バイブルになりそうな本に出会う。そういった本に出会うと、感想をブログに書き残すようにしている。その行為を通じて、何度も何度も読み返してその本からの学びを結晶化することができ、またその記事をあとからも何度も読み返すことで、そのエッセンスを自分のものとするからである。
このようにしたいと思う本に、久しぶりに出会った。リクルートの60万部フリーペーパー「R25」の創刊から編集長を4年間務めた藤井大輔氏による「R25のつくりかた」である。装丁もとってもお洒落でうらやましい。次は、こういう感じの新書を作ってみたい。
さて、私は感動する書物や音楽に出会うと、すぐに身の回りにいる人に薦めてしまう。そして、私のこの感動は、きっと仲間には伝わらないのだろうなと、これまでの経験から知っている。感動が大きければ大きいほど、がっかりする。
しかし、今日はすぐにはあきらめないことにした。代わって、「なぜ私が感動したのか」を考察することによって、「なぜ彼らは感動しないのか」を理解し、「どうすれば感動してもらえるかもしれないのか」について仮説を立ててみることにした。
感動した理由①:誰しもが「無謀」と思った挑戦(≒自分たちとの共通点)
まず、「活字を読まない若い世代をターゲットにして、首都圏で100万部規模のフリーマガジンを作る」という事業コンセプトについて、他部署から引き抜かれた藤井氏自身も、最初は「1%の成功確率もない」構想と疑問を抱きながら、その道のプロにヒアリングしていき、「ありえない。絶対に考えなおした方がいい」とあしらわれる。
これは、生保業界の人たちが口をそろえて、「いやぁ、ネットで生保は売れませんよ」と語るのに非常に似ていると感じた。
これに対して、R25事業構想の発案者である若い二人は、明快な解答を持っていた。
「M1が活字を読んでいないのは、つまらないからですよ。面白いものがあればいいんです。」
その道のプロを自称する人が「無理」という新事業を、極めてシンプルなロジックをもって打破し、きめ細かい作り込みで実現したことに、同じような挑戦をはじめたばかりの者として、勇気と感動を覚えるのである。
感動した理由②:「心の本音を探り当てる力」(=自分たちがまだまだできていないこと)
本書に感動したもっとも大きな理由は、自分がライフネット生命のビジネスをやっている上でもっとも必要だが、もっともできていないと感じている部分を、藤井氏が明快にやり遂げていたことである。
それは、「生々しく、不合理な消費者の心理を徹底的に理解し、彼らが困っていることを解決するものを提供している」ということである。藤井氏はR25のコンセプト作りのための調査を行う前提として、消費者心理について以下のように考えていたという:
「『ダ・ヴィンチ』時代、作家の皆さんと一緒に、人間の奥深い業(ごう)のようなものを追いかけていたこともあり、そもそも人間はそんなに単純なものではないと思っていました」
「人間とはもっとややこしくて難しくて面倒くさい存在のはずではないか」
そう、人間は複雑で、ドロドロしていて、移ろいやすい、微妙な心理状態の違いですぐに気が変わる、そういう生き物なのである。そして、消費者向けのビジネスをやるということは、そういった人間の心に、ぱしっとはまる答えを提供することなのである。
具体的には、「M1層」と呼ばれる25歳~34歳の世代が、ネットアンケートでは正直に「新聞を読んでいない」と回答するのに対して、対面のインタビューをすると8割の人が「新聞を読んでいる(しかも日経)」と答えている矛盾について、200人ものインタビューを通じて、以下のように解き明かしている:
「新聞を読まないといわれているM1層でしたが、新聞にはステイタスを感じている。ところが、読むための事前の知識が不足しているので、それがコンプレックスになっている・・・読まない、ではなく、読めない、だったのです」
情報に敏感で、多忙な中、時間を有効に活用したがっている。自意識過剰でカッコつけ。顔には出さないが不安もある。そんなM1世代は、本当は日経新聞を読めるようになりたいが、読めない自分にもどかしさと不安を感じている。そんな彼らに対して、
「ニュースの消化不良感を取り除く、胃薬のような情報を提供してあげればいいのではないか。M1層が『自分たちに向けてくれている』と感じてくれる書き方で、新聞を読み解くための基礎情報を提供すればいいのではないか」
と商品のコンセプトが明快に結晶化されたとき、本事業の成功は、大きく前進したように思える。これによって、「面白いよりも、役に立つ」ものを求めていたことに気がつき、レジャーやエンターテインメント情報誌よりも、ビジネス誌に仕立て上げていくのである。
感動した理由③:決め細やかな作り込み(=自分たちがまだまだできていないこと)
もっとも、このようなコンテンツのコンセプトができあがったとしても、さらに読者の利用シーンをヴィヴィッドに想定して、それに合った媒体を作っていかなければならない。
具体的には、上記の類の情報は「仕事とプライベートの中間にある」と位置づけられると考え、それを読むにふさわしい「心のちょっとしたスキマ」がどこにあるかを探っていった結果、
「帰りの電車の中」
という利用場面を想定する。首都圏の電車で駅ひとつ分を移動する2分で読み切れる分量として800字の短いコラムを決める。
もうひとつすごいと思ったのが、配布日を木曜日に決めた理由。
「月・火・水曜日だとONの意識が強すぎるし、金曜日になってしまうとOFFばかりに目が向いてしまう。だからその間の木曜日に決めよう」
まだいろいろあるのだが、長くなりすぎそうなので、一度ここらあたりでまとめに移ろう。
まとめ:この感動を分かち合うためには・・・
同僚たちにこの感動を共有してもらうためには、
① 自分たちの挑戦との類似性を認識し
② 自分たちが成功するためにはやらなければいけないが、現状では上手にできていないこと(≒心の本音を探り当てて、利用シーンなどを明確に想定し、それに合ったサービスを作り込むこと)を痛感し
③ それを本書では見事にやりぬいており、自分たちがやるべきことに対して示唆があることを理解してもらうことが必要
ということに気がついた。この点を強調して、改めて、みんなに本書を進めてみようっと。
あいにくのお天気ですが、よい週末をお過ごしください!
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