生命保険業の中長期的な競争力の源泉は、どこに宿るか?
● 営業?
いつの時代も、どんなビジネスでも営業やマーケティングの役割は重要であることは疑いない。しかし、これまでの「営業一辺倒」だった生保のビジネスモデルにも、変革が求められるのではないだろうか。
かつて、当局の規制により商品内容と料率が同一であった時代であれば、「誰から買っても同じなのだから、縁故の/もっとも気が利く営業から買う」というのが、買い手にとってもっとも合理的な選択だったのだろう。
それが、規制緩和によって商品・料率は多様化し、たとえば典型的な定期保険の商品であれば、ほぼ同一の保障内容であっても、保険料は4万円から8万円の幅があるようになった。このような状況を消費者が理解するようになれば、普通の買い物を買うときと同じように、まずは商品を比較する、というステップをたどることになる。
我々が「普通の」商品を買うときは、商品の比較と、チャネルの比較、2つのステップを辿っている。すなわち、価格と性能のバランスで、もっとも自分に合った商品はどれか。次に、その商品を買うのにベストなチャネルはどこか。商品とチャネルは多様化し、分離される。
だとすると、今までのような1社専属を前提とした営業力のよしあしがもっぱらシェアを決める時代から、商品力、マーケティング力、そして営業力と、バランスよくなっていくのだろう。つまり、従来型の「営業力」の重要性は、少しずつ、下がっていくと考える。
● 商品開発?
どの分野でも、優れた商品を生み出す力は、企業の競争力の源泉である。しかし、金融業界について言えば、どれだけ新にイノベイティブな商品を開発する余地があるのか、いささか疑問である。
金融商品は無形であり、顧客と会社の「約束」に過ぎない。そこには特許は存在しないため、誰でも真似をすることができる。その点では、本質的にはコモディティ商品である。
生命保険の商品開発で言えば、欧米は日本市場よりも20年くらい進んでいるのではないだろうか。欧米のマーケットで常識となっているが、まだ日本ではまだ普及していない商品が、いくつかある。例えば、リスク細分型の保険であったり、就業不能に備える保険。
「無事故ボーナス」などの耳触りのよい特約を付加すること、あるいは保険料や保険金の払い方にバリエーションを設けたところで、それは売りやすくする「販促」としては有用かも知れないが、本来的な意味での「商品開発」ではないのではないか。
保険会社の方々と議論すると、「貴方の言っていることは正しいが、それでは売れない。消費者は正しいものを理解せず、非合理な行動をする」という結論になることがほとんど。しかし、私はそうは思わない。業者側が考えているほど、消費者は無知ではないし、その状態がずっと続くとは思わない。より本質的な価値を理解し、それが受け入れられるようになっていく。
今後の我が国生保業界で問われる「商品開発力」は、何か斬新なものを生み出す力ではなく、本当に顧客にとって「よい」、利益率は低いかも知れないが、本質的な価値を提供する「当たり前」の商品を、堂々と正面から提供する力であるように思う。
● 資産運用?
預かった保険料の運用は、保険会社にとって中核の業務である。したがって、資産運用の実力は保険会社にとって本質的に重要ではある。
もっとも、バフェットなどの例外を除けば、中長期に渡ってマーケットを出し抜くことは容易ではなく、市場の平均リスク/リターンに収斂していくと考える。
今後の資産運用力はむしろ、優れたリターンを上げ続ける能力というよりは、失敗をしない、たとえば資産と負債のデュレーションをきちんと合わせるなどの、きちんとしたリスク管理能力ではないだろうか。
● オペレーション?
保険の本業はリスクを査定し、それに価格を付けて、引き受けることである。契約を長期に渡って守り、保険事故が発生したときに、速やかに支払うことである。これらのオペレーションの巧拙こそが、保険会社の価値の源泉である。それは保険数理や保険医学というサイエンスと、それを判断するアンダーライターや支払査定士のアートの両方が要求される。この力こそが、保険会社の中長期的な競争力の源泉であると考える。
そして、先に書いたように、保険商品自体がコモディティであるならば、このようなサービスをいかに低コストで提供できるかという点も、中長期に渡って重要な競争力の源泉である。効率のいい事務フローと、それを支える柔軟なシステムを作り、1円でもオペレーションコストを下げていくこと。それこそが、保険会社の命運を決するのだろう。
● 予想されるツッコミ
もちろん、契約が取れないと、仕方ないですけどね。
岩瀬さん、久しぶり意見を表明させてください(笑)
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我々が「普通の」商品を買うときは、商品の比較と、チャネルの比較、2つのステップを辿っている。すなわち、価格と性能のバランスで、もっとも自分に合った商品はどれか。
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『もっとも自分に合った商品がどれか?』
テレビ、雑誌などのメディアで必要な保険商品(コモディティ、しかも若干のトラップ付)の情報が日々垂れ流されている中で、マーケットの迷いは、特に一定のリテラシー層の迷いはそもそもこの課題を解けていないことだ・・・10年以上現場の最前線にいていつもそう感じてます。
明日死ぬか、90歳で死ぬか。
明日入院するか、ずっとしないか。
そもそも30年後は入院なんて制度さえなくなって、外来治療と在宅往診になってたら入院保険は要らないし?(笑)
つまり保険に正解などないのですもんね。
よって、岩瀬さんがいうもっともな購入プロセスに入るのに躊躇し、先延ばししているという課題があるのでは?だから、そのプロセスでコトが進んでいかないのでは?
解決すべき、してあげるべきはそこなのかもと思います。
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業者側が考えているほど、消費者は無知ではないし、その状態がずっと続くとは思わない。より本質的な価値を理解し、それが受け入れられるようになっていく。
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まったくその通りだと思いますね。マーケットは賢いのです。
ゆえにそれがコスト競争力であれ、ベターなサービスであれ、本質的な価値をマーケットに提供した者が勝つのでしょうね。そうでなくては、ビジネスはつまらないですよ!(笑)
それから、商品開発に関しては同意見で、イノベーティブなものは難しいと思いますね。なぜなら保険は確率、運用、コスト(予定死亡(事故)率、予定利率、予定事業費率)の掛け合わせですから、あっと驚くような得なものなどありえませんもんね。
オペレーションの部分に書かれたことは、保険業の本質であり唸らされました。経営サイドの立場としてとても正しい認識だと思います。最終的に差が出るとしたらやはりココか?
システム効率の向上のため、生保業界も今後もM&Aやらありそうですね。。。
そうそう。前後しますが、システムや事務上の負荷を考慮していくと、商品の部分で書かれていたリスク細分化商品や就業不能(Disability)などの開発も経営サイドとしてはやはり躊躇するものなのかな?私のような営業の立場なら商品は多ければ多いほうがいいのですが(笑)
ツッコミ?(笑)
御社が正しければゆっくりでも契約は自然に増えますし、いつまでも増えないのなら残念ながら正しくないということでしょう。
だってマーケットは賢いのですから(笑)
長分失礼しました。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2009年2 月 7日 (土) 14:08