去年の秋頃に「本当の『ハーバード留学記』」として予告した、HBS同級生の英国人ジャーナリスト、Philip Delves Broughton による著書 "Ahead of the Curve: Two Years at the Harvard Business School" が欧米の一流経済紙で話題になっているらしい。Wall Street Journal, Businessweek, Economist, Financial Times などがすべて取り上げ、New York Times Bestseller List にもランクインしたとのこと。すごい!
Economist の書評 は "Factory for Unhappy People(不幸せな人を製造する工場)" を書評記事のタイトルとして採用し、以下の二点を著者が指摘するHBSの課題として引用している。ひとつは、HBSが卒業生が企業経営者ではなく、世界中のすべての問題を解決できるリーダーを輩出していると自己を誇大評価している点。もうひとつは、卒業生がキャリアに猛進し、幸せなパーソナルライフを送ることができていない点(講演に来たGSの幹部が「4人の元妻がいる」と発言したことを引用)。
Businessweek の書評 が引用する下記の箇所も、最高:
He came away appalled by the power that business wields in our society and by the ability of an institution like Harvard to perpetuate that state of affairs. "Has society allotted too much authority to a single, narcissistic class of spreadsheet makers and PowerPoint presenters?" he asks.
著者は同校での体験を通じて、企業セクターが私たちの社会で奮うあまりに大きな力に驚愕するとともに、ハーバードのような機関が(影響力を持つ卒業生を輩出し続けていることによって)そのような状態を永続させることができていることに驚いている。
"私たちの社会は、自己陶酔的なエクセル屋、パワーポイントのプレゼン屋によってなるほんの一握りの人間の階層に、過大な権力を与えすぎてしまったのだろうか?”と彼は問う。
いずれの書評も、本書が単なる批判にとどまることなく、HBSでの学生生活を彩り豊かに表現しており、かつ著者が経営大学院として優れた面を高く評価していることも、きちんと述べている。
本書を読んで、自分自身の2年間についてもう一度考えさせられた。自分自身のナイーブさを見せつけられたような気がした。同時に、どこかで感じていたある種の違和感をきちんと説明してくれて、スカッと胸がすく思いすらした。
著者は英国の老舗Daily Telegraphのパリ支局長も務めた人間で、保守本流のジャーナリズムの訓練を受けているだけあって、事実はディテールまで的確に、そしていいところはきちんと評価しつつも、「古い欧州」的な知性とシニシズムを持って同校を批評している。そして「資本主義の士官学校」と称される動向を批評することは、すなわち米国資本主義の傲慢さを批判することにほかならない。
なんか嬉しくなっちゃったので、本人に電話して、いろいろと話を聞いた。草稿を読んでコメントしたので、Acknowledgmentsに名前を入れてくれたって。これで、洋書デビューを果たすことができた(違うか)。HBSは本書の「火消し」に躍起になって、一部の教授から抗議の手紙ももらったとか。HBSも外部の分析・評価は得意なのですが、自分自身については冷静に評価ができないようです。
日本語版の出版は、来年の春頃になるか。楽しみに待つこととしましょう!
始めまして。徒然人です。先日の日経ホールでのパネルで貴殿の存在を知り関心を持ち初訪問しました。
ある分子生物学者が「生命とは、自己複製するシステムであるが、さらには、動的均衡(dynamic equilibrium)にある流れそのものである」説明しておられましたが、彼の説明によると全ての物質には「エントロピー(乱雑さ)」が押し寄せつまり時間とともに無秩序になってゆき、やがては「死」に至る不可避的な性質があるらしいですね。
このことを自然科学の世界では「エントロピー増大の法則」と呼んでますが、確かにこのことは自然界だけではなく、おそらく自然界の構成要素であるところの人間にもあてはまるでしょう。またその人間から構成されている国家や企業や経済の世界にも同じような法則が当てはまる気がします。
驚いたのは、「生命体」は、このエントロピー増大の法則に抗してやがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解しこのような乱雑さ(エントロピー)が増大する速度よりも早く、常に再構築し、乱雑さ(エントロピー)をソトに出すことで生命体を死から回避し存続させているとのことです。
この生命体を維持し存続させるものを「ネゲントロピー」と呼ぶらしいのですが、まさにHBS自体にこのネゲントロピーがあることを期待しております。
「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」というこの自然の教えから我々人類は多くを学ぶべきでしょう。
そして、経済の世界でも、寿命を維持できるための我々生命体の持つ不思議な「仕組み」のインプリケーションに多くを学べそうな気がします。
投稿情報: 徒然人@世田谷 | 2008年10 月 4日 (土) 01:40
Ahead of the curve、読み終わりました。
ブログに書評を書いたのですが、トラックバックがうまくいかないので、コメントでお知らせしますね。
http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2008/10/factory-for-unhappy.php
Philipに「すごく面白かった」とお伝えください!
投稿情報: la dolce vita | 2008年10 月 2日 (木) 18:25
はじめまして!今年HBSに合格し、入学を1年先送りして来年度からClass of 2011として入学する者です。
私は米国在住のためこの本がすぐ手に入ったので、今読んでいる最中です。Acknolwedgementsに岩瀬さんの名前、発見しましたよ!
P.S.)2004、5年からブログをずっと読ませてもらっています。私がHBSに合格できたのも、岩瀬さんのブログを通してHBSへの思い、パッションがとてつもなく高まった結果だと思っています。ありがとうございました!
投稿情報: Emi | 2008年8 月29日 (金) 16:27
いよいよ出版されるんですね!
素敵な表紙がついて、きっと多くの人が手に取ることでしょうね。
日本語版が出るのも待ち遠しいですね。
岩瀬さんの名前、確認するのが愉しみです♪
投稿情報: しょーこ | 2008年8 月28日 (木) 22:58