Infinity Ventures Summit の目玉企画が、10~15社のベンチャーが新商品・サービスを6分で発表する、Launch Padという企画。先ほど終わったのだが、15社もの6分プレゼンを立て続けてに聞いていて、「心を打つプレゼン術」のツボが少し整理できたので、ここで共有。プレゼンを聞きながらこのメモを書いていたので、気分はジャーナリストっぽいブロガー。
1. サビ、クライマックスから入れ
たとえば映画であれば、オープニングにまず、盛り上がる「ツカミ」のシーンをもってくる。そこでいったん観客を引き込んでから、「話は10年さかのぼって」と、ペースがゆっくりのシーンに戻っていく。
楽曲をCMに使う場合であれば、必ず「サビ」の部分を使う。HBSの授業も、第一回は教授の自己紹介もコース概要の説明もなく、まずいきなりケーススタディに飛び込んだ。しかも、コース全体を通じてもっとも面白く、盛り上がるやつ。かなり難しく、まだ泳げない人が、浮き輪をせずにプールに飛び込むようなもの。
いいプレゼンも一緒。
一番おもしろいところ、それはデモだったり、商品のプロトタイプだったり、リアルなケーススタディであったり、なんでもいいのだが、そこにいったん飛び込んでみて、聴衆の心をつかんでから、市場の全体像などを語るべきだろう。
2. 裏の裏(のウラ)をかけ
映画を見ていると、
「あー、どうせあいつが犯人なんでしょ」
とか
「あー、あいつが犯人と見せかけて、あのいいやつが実は犯人なのでしょ?」
とか、つねに先を読もうとする心理が人間にはあるようだ。
プレゼンを聞いているときも同じで、せっかちな我々は
「あー、あの話ね。あれって、~がダメなんだよねー」
といった感じで、常に一歩先を読んで、ネガティブな情報を考えたりする。
だとすれば、プレゼンで大切なのは、「裏の裏をかく」ことではないか。
「あー、そのサービス。似たようなの他社もやってるけど、流行ってないよね」
「それでは、次にA社とこのサービスの決定的な違いをご説明します(資料が用意されている」
「あー、でもさぁ、ユーザーはこういうの面倒だから、使わないよね」
「次に、ユーザーに実際に触ってもらった体験談とアンケート結果をご説明します(データが用意されている)」
「ふーん、ちょっとは面白いかもしれないけどさぁ、web2.0ってカネにならなくね?」
「さらに、このサービスの3つの収益源を説明します。すでに何社かに非公式に打診したところ、~なら払ってもいいと言っています(資料が用意されている)」
などなど。こう話したら、どういうツッコミが入るだろうか。それに対しては、どうこたえるのが説得的だろうか。その答えに対して、さらにどんなツッコミが入るだろうか。それに対しては、どんなデータを見せるか。いわば、シャドウボクシングのような形で、どれだけ深く、裏の裏のウラをかけるところまで準備しているか、によって、説得力のあるプレゼンが作られるのではないか。
3. エレベーターピッチ:最初の1分で、言いたいことを全部言い切れ
いつ、途中で打ち切られてもいいように、最初の1分でもっとも大切なポイントと、伝えたいことを話せるようにする。詳しい説明は、興味を持ってもらってからでいいから。ポイントを3つに絞った、分かりやすいストーリーか。
ネット生保でいえば、
① 年間45兆円の巨大市場
② そこにある大きな非効率(あなたも生保セールス、受けたことあるでしょう?)
③ その巨大な市場がいままさに変わろうとしており、新規参入のチャンス大
というのが大きなストーリー。30秒で説明できます。大切なのは、臨機応変にプレゼンの「1分バージョン」「10分バージョン」「1時間バージョン」を行き来できるくらい、内容とポイントを練り上げていくことだ。
4. 勢い、情熱、パッション
月並みですが、もっとも大事かもしれない。やっぱり、明るく、大きな声で、元気いっぱいで、勢いと強い思い入れをもって、パッションたっぷりで語っている人は、ストーリーの説得力が5割増し。
たんたんと語られると(いま、目の前にたんたんと語っている人がいます)それだけで、説得力は3割減。
勢い、大切です。
5. 目の前にいる人に買ってもらえないんだったら、誰も買わないって
目の前で自分の話を集中して聴いている人が、「市場全体に流行るか分からないけど、少なくとも自分はそれ使ってみたい/人に薦めたい」と思ってくれないなら、どうしてもっとメッセージが薄くしか届かない、多数の人が買ってくれるだろうか?
ちなみに、ライフネットのプレゼンの後に、司会の小林さんが会場の皆さんに
「このプレゼンを聞いてライフネットの生保に入りたくなったひとー」
と聞いてくれたところ、9割以上の人が手をあげてくれました。終わってからも、何名もの人が「入ります!」「ホントですか?営業の電話しちゃいますよー」という会話多数。嬉しいです。
6. 「他人事」ではなく「自分ごと」とrelateしてもらえるか?
その際のポイントは、「共感・共鳴」「自分ごと」="relevance" のネタ仕込み
「あー、確かにそういうことあるある」
「確かに、こういうのがあったら超便利だよね」
と思ってもらえるかではないか。
これに対して、
「理屈では分かるんだけど、自分はいいや(他人事)」
と思われるようだったら、アウト。
7. 「生々しさ」「リアルさ」を追求せよ
6.の続きだが、ユーザー事例を写真などで交えたり、社内でもいいから、ヒアリングをしたりユーザー体験をしてもらったりすると、説得力が増すはず。リアルなユーザー像や現場の声を取り入れ、紹介する。
今日の名プレゼンでは、自分が空港から会場につくまでの写真だとか、行ったすすきののお店の写真や位置データや、来場している人を写真に撮って彼らにサービスをあてはめたりしたデモが、バカ受けしていました。
どうやって、プレゼンを聞いている人が、自分にrelatedできるか、その名シーンづくりに知恵を絞るべし。
8. インパクトあるファクツやデータを示せ
「よさそう」とか「面白そう」というのは主観であるが、データはどんな主観的なものより強い。
我々であれば、
「年間45兆円の市場」「GDPの約1割」「年間53万円の保険料」
などなど、大きな数字を投げたのが、インパクトがあったようだ。
小さな独自調査でもいい。
「n=60の調査ですが、82%の人が、~は使いたいと言っています」
みたいなものでも、データがあるか否かで、説得力はまったく違う。
9. とことんリハーサルせよ
制限時間が6分、と決まっているのに話が終わらない人が何名かいた。願わくば、6分なら3分で言いたいことを全部言い切るつもりで、何度もリハーサルした方がいい。10分なら5分で終えるつもりで。どうせ、50%くらいは時間オーバーしちゃうんだから。
あと、プレゼンで緊張してしまう人がいるが、これも練習の数だと思う。「なぜ緊張するか」というと、結局「自信がないから」に尽きると思う。「この話をしたら絶対にウケル」とわかっていたら、絶対緊張しないですから。3回の練習で緊張するなら、10回、20回やる。親しい人に聴衆となってもらい、改善点を出してもらう。さすがに、20回もやったら、全然緊張しなくなりますよ。
10. 笑いを取れ
これは私も苦手なのですが、やっぱりユーモアたっぷりで笑いを取っていた人たちは、会場も和んだし、話もよく聞いてもらえていたような気はする。笑いを嫌う人はいないはず。どんなに緊張した交渉の舞台でも、ユーモアは大切。だとすれば、新企画プレゼンではなおさら。
狙ってもできないので難しいが、少なくともトライする価値はあるだろう。
以上、参考になれば。
この10か条ですが、大変参考になりました。同じ場に居合わせていながら、ここまで細かく分析されているものだなと関心しつつ、自分が話しをする側にまわったときに注意したいと思います。
特に、1について、行っている人とそうでない人で、インパクトの違いがあったと感じます。
また、練習に練習を重ねていたんだろうなと思われる方が、やはり強かったですね。
投稿情報: 高野秀敏 | 2008年6 月 7日 (土) 16:11
素晴らしい分析力ですね。いつも拝見してますが本当に頭いいですよね。岩瀬さんの司法試験の講義是非聴いてみたかったです。
仕事頑張ってください。
投稿情報: NAO | 2008年6 月 6日 (金) 14:03
大変ためになりました。ありがとうございます。自分の足で得た情報を出し惜しみする人がいる一方で、このように何のてらいもなく情報を共有してくれる姿勢に感動します。これからも応援してます。頑張って下さい!
投稿情報: ryota | 2008年6 月 6日 (金) 13:29
岩瀬さんはプレゼンギークですね。なにか高い情熱をヒシヒシ感じました。
勉強させていただきます。
投稿情報: すばらしい提言 | 2008年6 月 6日 (金) 12:43