野村證券のインサイダー取引事件が世を騒がせている。インサイダー取引が許されないことは言うまでもないが、法人として不正を防止するためにどこまで手を打てるのかを具体的に考えていくと、なかなか一筋縄ではいかない。人気ブログのエントリーを読みながら、考えさせられた。
(参考エントリー)
野村證券インサイダー事件と内部統制の限界
野村證券インサイダー取引:法人責任を否定するのはまずいのでは?
この点、資本市場の成熟度という点では我が国よりもずっと進んでいるはずの米国でも、インサイダー取引はいまだになくならないようだ。例えば、ゴールドマン・サックスのあるトレーダーが、同社のアソシエイトやメリルリンチのアナリスト、印刷所で働いていた2名など、総勢12名を巻き込んで大がかりのインサイダー取引をやっていた事件について、今年の1月に判決が出ている。
この事件は、リーボックがアディダスに買収される直前に、クロアシアで年金暮らしをしている女性の元裁縫師が200万ドル(約2億円)の利益を上げていたことに当局が目をつけたことから、明るみに出た。この女性は首謀者の叔母だった。このグループは、メリルのアナリストが提供した進行中のM&A案件や、発売前のビジネスウィーク誌記事などから情報を得て、大がかりな取引を行っていたとのこと。
また、別の事件では、クレディスイスで働く37歳のパキスタン人が、パキスタンにいる元同僚にM&A情報を流して取引をさせていた。取引額は、750万ドル(約7億5千万円)にのぼっていた。この事件は、M&Aが発表される直前に、不自然な量のオプションが取引されていたことを調査したことから、発覚した。
驚くのは、コンプライアンス対策を厳しくやっているはずのこれらの名門投資銀行、しかも米国本国において、このようなびっくりするような「初歩的」なインサイダー取引事件が起こる、ということだ。当然、研修の類は実践し、情報のアクセス制限や株式取引の制限など、仕組みはできているはず。インサイダー取引の情報は電話一本で流せるのだから、大勢の社員が働く中で、誰かがホンキで「出来心」を起こしたときには、企業は無力となるのではないか。
記事を読む限りは、インサイダー取引が起こったときに、たとえばゴールドマンやメリルの法人としての責任が問われている様子はない。これは、企業としてできることを現実的に見極め、そこからは個人の責任、と割り切りがされているからなのか。それとも、何らかの処分がなされているが、その部分はことさらに報じられないだけなのか。実際、どうなんでしょう?知っている方がいたら、教えてください。
そして、野村證券に話を戻すと、同社がコンプライアンス研修や情報のアクセス制限、株式の取引禁止規定、届け出義務など、一連のインサイダー取引防止策を取っていると仮定する。これに加えて、企業としての内部統制の改善策が求められるとしたら、具体的にどのようなことができるのか?そもそも内部統制というものに、期待されるべき役割はなんであり、そこに限界はないのか?新しい時代のコンプライアンスのあり方を考える上で、象徴的な事件であることは間違いない。
一連の制度を整備して、会社としてのコンプライアンス遵守の理念を伝え、一連の制度をきちんと運用し、最後は従業員のモラルに任せるしかないのだとしたら、究極的には、「どう上手にやったつもりになっても、絶対にばれるんだよ」ということと、「つかまったら、本当に大変なことになるんだよ」ということを、まるで運転免許更新の際の事故ビデオを見せるように、感情面でしつこく訴えていくしかないのだろうか?
私、海外(欧米)の企業にいましたが内部統制なんて言葉なかったですよ。内部統制もISOなんかも日本人が洗脳されやすいからできた手法で、いくら内部で統制しても自由な意思を持つ人間はある程度しゃべるんですよ。そこをベースにすることが大事ですね。
投稿情報: アクサ関係者 | 2012年7 月 7日 (土) 01:01
よくテレビで従業員の不祥事に頭を下げて謝罪する企業幹部の映像を目にしますが、あればまずとりあえず謝るという日本的文化を象徴している光景だと思います。
あの手の光景を見る度に思うのは、一体何について謝罪しているのだろうか、ということです。
企業としてどこまで責任を負うべきで、どこからが従業員個人としての責任なのか。そこがあいまいなまま頭だけ下げても生産的ではありませんし、やみくもに内部統制のルールをモラルの極めて低い人に合わせて厳しくするだけという対応につながっていくようにも思います。どんなにきびくしてもゼロにするのは不可能でしょう。
コンプライアンス体制は常識と良識に基づいて構築する。不正を行った個人には厳格に望む。
当たり前ですがこの原則に忠実であることが重要ではないかと思います。
そういうばNHK職員のインサイダー取引事件、どうなったんでしょうね。
投稿情報: wanly@indonesia | 2008年4 月27日 (日) 12:22
初コメントです。
私はまだ学生で企業のことはよく知りませんが企業の経営理念というかintegrityといったものを意識し、実践し続けることの難しさが浮き彫りになった事件ですね。
投稿情報: ナトリウム | 2008年4 月25日 (金) 22:31
ありがとうございます!大変、参考になりました。
投稿情報: Daisuke | 2008年4 月25日 (金) 09:07
当然のことながら、社内の管理体制に不備があれば、法人の責任も追及されるのは言うまでもありません。
投稿情報: 経済犯罪対策海外事情 | 2008年4 月25日 (金) 08:28
海外の経済犯罪対策は概ねこの3点セットです:
1.企業側は「無過失」を立証できるだけの体制を整備する(コンプライアンス研修、情報のアクセス制限、株の個人的取引の禁止など)
2.その上で、実際に違反者が出た時には、懲戒処分+損害賠償請求(企業から当該従業員へのサンクション)
3.当局による当該個人への厳罰(アメリカと比較すると、日本のインサイダー取引の処罰の低さは顕著で、時折、外国人投資家からは「本音では日本はインサイダー取引に取り組む気が無いのでは?」との質問も受けます。
一言でまとめると、企業は違法行為を抑止できるだけのシステムを作り上げ、損害賠償請求も含め、違法行為が発生した時には従業員の責任を厳しく追及すること、監督当局としては、違法行為が「割に合わない」と感じさせられるだけの罰則を用意するということになります。
「日本は経済犯罪の処罰が甘すぎる」というのはよく海外の投資家から言われるところで、「経済犯罪を日本は許容している訳ではない」というメッセージを意識的に送っていくことが重要だと思います。
投稿情報: 経済犯罪対策海外事情 | 2008年4 月25日 (金) 07:52