友人から送られてきた、BCGの欧州保険業界のレポート("Creating Competitive Advantage --- The European Insurance Landscape")を読んだ。
日本の生保業界ばかりを見ているうちに、いつのまにか、「セイホは特殊な業界だから」ということで、通常の経営戦略などの議論とは別に考えようとする癖が身についていることに気がついた。
しかし、欧州の100社以上の保険会社を分析した本レポートを読んだ感想としては、「そうか、保険も普通のビジネスと同じように考えていいんだ」というものであり、これは当たり前のようでいて、ある種の新しい発見をもたらしてくれた。
いわく、持続的な競合優位性を築くためには、経営者は以下のことをやらなければならない:
- 株主価値創造のこだわり。細かい単位で収益性を正確に管理し、同時にその収益を支えるためにどれだけの資本が本当に必要か、過剰な資本を抱えていないかを、厳しく精査する。
- 顧客視点のセグメンテーション、顧客満足度の向上、魅力的なブランド構築
- チャネル(代理店、銀行)販売戦略の最適化
- オペレーションの効率化。特に簡素化・標準化された商品やプロセス、事務作業の自動化、保険金支払の最適化など。
- 狭義の保険業務(リスク引き受け)の最適化
- 財務戦略。保険は他人資本を活用した、かなりレバレッジが利いた資産運用であり、資産・負債の管理、アセットアロケーションなどによって、業績は大きく変わってくる。
- 優秀な経営幹部の採用。持続的に可能にするためには、働く人たちにとって成長できる、魅力的な職場であり続けることが必須。
改めて書き出してみると、「普通の業界」においてはいずれも当り前のことなのだが、このように統合的に経営戦略として考えることが、生保の場合、なかなかなされない。
そして、一つのポイントは商品とチャネル、オペレーション体制やフロー、ITインフラなどが、すべて整合性が取れていれば、中長期にわたって圧倒的なコスト優位性を築けるはず、ということか。
過去の契約もインフラもブランドもない当社だが、この観点からは、ゼロからすべてを統合的に作っていけることは「持たざる強み」であり、それをどこまで実行できるかが大きな成功の鍵を握る。
そして、シンプルで簡素な商品と、ウェブというチャネルは、何もお客さまが求めているから必要なだけではない。本当にコスト競争力があるオペレーションを構築するためには、すっきりしたシンプルをできるだけ低コストで管理していくプラットフォームが不可欠となるわけだ。この点において、「シンプルなネット生保」という戦略は、一定の合理性を持つ。
また、「資本コストを超過する収益を生み出す」というファイナンスの基本的な視点が、株式会社たる保険会社の経営にあたっては不可欠であることも、再確認させられた。期間損益が企業価値を必ずしも正確に反映しない保険の損益計算書の性質や、他人資本たる責任準備金という負債が中心となるバランスシートの特殊性などから、生保の場合はつい「資本効率」という概念が希薄化してしまうが、本質的には投下された資本に対してどれだけリターンを上げられるか、という視点は、何ら変わらず重要である。
国際的に見ると、日本の生保業界は極めてユニークである。だが、他の金融業もそうであるように、時間をかけて、その本質的な部分(もちろん、各国によって大きな違いは色々とありますが)は先行市場たる欧米のそれに似た構造に収斂していくのではないだろうか。その点において、欧米における生保業界の発展の歴史は、極めて興味深いものである。
よい週末をお過ごしください!
最近のコメント