代理店として保険を販売している方が、ぽつりともらした一言。
「お客様にとって『いい商品』を売ろう、という発想はあまりない。我々として手数料が稼げる商品を売るだけ」
これは何も保険の世界に限ったことではなく、どの業界でも同じことだろう。例えば、マイクロソフトやオラクルは技術的にもっとも優れた会社だったわけではなく、その強い営業力ゆえ現在の地位を築くに至った。どれだけ「いい商品」を作っても、お客さんに買ってもらって、使ってもらわなければ意味がない。その手段として、販売代理店に適切なインセンティブを与えることが重要であるなら、戦略としてそれを商品設計に織り込む必要があるだろう。
保険が特殊なのは、通常の商品であれば、代理店に薦められても、消費者自身が商品のよしあしを判断することができる。これに対して生命保険の場合は、通常は自分に合った商品かどうか、そしてそれが市場で見て競争力のある商品かどうかが分かりにくいため、営業を行う人に対して十分な牽制を働かさないと、消費者が不利益を被るおそれがある。
少し似ているのは、自動車の修理工場だろうか。アメリカにいる頃、古い中古車に乗っていた。エンジンの調子がおかしいので工場に持っていくと、当然業者は「交換が必要」と色々と薦めてくる。複数の修理工場に持っていって合い見積もりを取ればよいのだが、時間も手間もかかり面倒なのでなかなかやらない。本当は個人的に仲良くなって、信頼できる業者がいればベストなのだが、そうもいかないため、車を取りに行ったあともしばらく「本当にあの修理は必要だったのか?」ともやもやすることになる。
HBSの企業倫理のケースでも紹介されていたのが、自動車修理工場で厳しい営業ノルマを課した結果、修理業者が必要にない修理ばかり行っていたという事例。必ずしも嘘をついていたわけではなく、車はどんどんアップグレードされているのだが、消費者はそれが本当に自分が求めているものなのかどうか判断しきれず、業者側の倫理が問われた。
これに対する解決策としては、消費者自身が自分で判断できるような豊富な情報提供を行うことと、業者側の販売行動をある程度規制するしかないのだろう。実際、わが国における金融庁の方針も、消費者保護の観点から保険会社に対して様々な厳しい行動規制の網をかけている。消費者と保険会社のあいだに大きなリテラシーの格差がある現状では、このような規制はやむをえないのだろう。
新会社の戦略を詰めていくにしたがって、お客さんにとって「本当にいい商品」を創っていく自信は少しずつできた。「理念に共感する」という感想を言っていただけることが多く、大きな励みになる。
他方で、現実的に商品を幅広く売っていくための「戦術」は、まだまだこれから考えていかなければいけないばかり。正しいことを唱えていても、普通にやっていては、その声は遠くまで届かない。新会社は限られたリソースで運営していくことになるため、どうやって我々の小さな声を1人でも多くの人のもとに届けるかは、引き続きの大きな課題となりそうだ。
あとマネー誌などで一生懸命情報収集するのは、会社発の情報ってほんとなの?と思っている人が多いからではないでしょうか?広告でいいことを言って(自分もやってましたが)、良さそうだけどなんか信用できないとかよく感じます。
ファイナンシャルプランナーの人の記事などを読んで、この人は中立っぽいし参考にしようか考えたり、一般のお客さんの評価などを結局参考にしています。
そういう意味でチャレンジは供給者側がどうすれば客観的でお客様の判断に意味のある情報を提供できるかということなのでしょうか?
投稿情報: くまさん | 2007年4 月 4日 (水) 18:00
確かに私自身保険会社にいた時にお客様にとって本当にいいものという発想で販売してはいなかったと思います。保険会社の社員である自分にとっては会社の販売目標達成のために代理店に働きかけていましたし、代理店にとっては手数料の稼げる商品を売るということが重要でした。
最近の自分のケースでも去年ぐらいから投信などを中心とした資産運用を始めているのですが、最初は何がいいか分からないから口座を持っている銀行の薦める投信を購入していました。その後いろいろと知りたいと思ってマネー誌などを読み始めてから、全て手数料の高い商品と知ってがっかりして、今ではノーロードの投信と株式運用に変えました。
そういう意味ではDaisukeさんの言うように供給者側と消費者のリテラシーのギャップを縮めることがチャレンジでしょうし、それに加えて供給者側にとってはあまり儲からなくとも消費者に本当によい商品をどれだけ本気で薦めるかに成功要因のキーがあるような気がします。
投稿情報: くまさん | 2007年4 月 4日 (水) 17:44