日本の新興市場には、「なんでそんなので上場できるの?」と思わせられる会社が少なくない。かつて保田君が日経BPのサイトで「日本の新興市場は一芸入試のようなものだ」といった趣旨のことを書いていたが、いいえて妙だと思う。僕が友人などに聞いた限りでは、バリュー投資をやっている欧米のヘッジファンドが日本の新興企業銘柄を見るときは、ほとんどがショート(=売り)ポジションだった。
一つの例だが、自分が割りとよく知っている業界で言うと、ブティック型のM&Aアドバイザリー企業がなぜ上場し、高い株価をつけられるのか、理解に苦しむ。そもそもM&Aアドバイザリーというビジネスは多分に周期性が高く(収益が不安定)、かつ属人性が高いビジネスである。凄腕バンカーがディールを取ってくるかどうかだから、基本的には大きな成長が期待できる類のものではない(一人の凄腕が処理できる案件数は限られている)。また、どれだけこちらが頑張っても、売り手・買い手が合意に達しなければ、フィーは落ちない。
経費を払った後で、一人のマネージングディレクター(MD)クラスが平均して年間5億円(年によって大きな浮き沈みあるのであくまで平均)の純利益を上げられるとしよう。成長性が高いものであればPER20倍をつけてもいいが、基本的にはこれはスケーラブルな商売でない(自動的に成長できない)。したがって、もっと低いPERがつくべきだろう。10倍くらいにしておく?そうすると、凄腕MD一人当たりの価値は50億円。これは、「部下を使って、毎年5億円を稼ぎ出すことができる、すごいおじさん」に対して、この人が将来稼ぐことができるキャッシュフローの現在価値として買っているのと同義。このような凄腕はいても2~3人だが、そんな会社であれば、100~150億円くらいの価値がつくということになろうか。しかし実際には、もっともっと大きなバリュエーションがついている。
このようにスケーラブルでない(自然と成長できない)、かつ利益が安定しない(市況による)、そしてかなりのスケールで組織化されていない限りは、高いマルチプルがつくようなビジネスではない。投資銀行が上場できているのはこのようなアドバイザリーのビジネスに加え、トレーディングや株式引受などのビジネスとともに、一つのポートフォリオとなっているから、そしてかなりの規模を達成し、個人商店から機関化しているからだ。
これは一つの例に過ぎないが、個人投資家は新興市場への投資は、きっちりファンダメンタルズを見て行うべきだと思う。裏で笑っているのは、市場の甘さに乗じて資金を調達し、大きな富を築くことに成功した経営陣と、大きなショートポジションを取っているヘッジファンドなのだから。もちろん、いい会社もたくさんあるのですが!
<追記> IBDの凄腕MDが平均で純利益いくらあげるのかよく分からなかったし、妥当なPEが5倍だか10倍だか分からなかったのですが、感覚的に一人50億円くらいのNPV(risk adjusted)というのでいいかな、と思って適当に数字作りました。流し読みしてください。
lat37nさん、rennyさん、コメントありがとうございます。特にrennyさんが書かれているように、エクイティの資本コストで資金調達して、それよりもずっとリターンが低いメザニンに投資するとなると、おいおい逆ザヤじゃんという感じがいたします。そんなファイナンスの基本を理解できない個人投資家が、「今後M&Aが増えるから買い」という判断をしてしまっているのが、今の日本の市場なのでしょうか。
投稿情報: Daisuke | 2007年1 月13日 (土) 11:10
こんにちは。
こういう会社がIPOすると聞いたときはビックリしました。(リンク先をご覧ください)
この類の会社を公開させる取引所、証券会社の見識を疑います。
今の水準の株価が何かのタイミングで下がった段階で「短期的業績ばかりを気にする株主の意向に沿うのは大変だ」とか言ってMBO&非公開化なんてことをやったりしないことを祈るばかりです。
投稿情報: renny | 2007年1 月13日 (土) 10:36
同意です。なんだかとても、歯がゆいときすらあります。
この事象の根底にあるものは、市場(投資家)の未熟さに加え、上場に至る以前の資金調達の過程においても、「あまり叩かれて」いない会社があるから、でしょうか?新興市場は確かに「可能性に投資」する機能はあるわけですが、その後存続しないような企業が多く上場するようでは、市場の信頼性も危うくなってしまいますよね。アメリカもバブルな時期があったわけで日本特有とは思いませんが、おっしゃるように良い会社もあるわけですから、そういう会社にもっと資金が回るように洗練されていくといい、と思っています。
投稿情報: lat37n | 2007年1 月12日 (金) 11:18