東大法学部のゼミは「研究室」という感じではなく、1年毎に変わる選択科目の一つのような位置づけだったので、在学中は(あまり真面目に出席していなかったこともあって)先生方とそれほど親しくならなかった。
そんなこともあって、僕にとって大学時代の恩師と呼べる人は、東大にはいない。本当に多くのことを学び、影響を受け、今でも親しく付き合いがあるのは学外の二人。3年次のゼミにゲスト的に教えに来ていた米国人弁護士のRichard Hyland先生と、1年の秋から司法試験の勉強を通じて、法律の全てを教わったと言ってもいい、伊藤真先生だ。
伊藤先生は司法試験受験生のあいだではカリスマ的存在であり、僕も(精神的につらい)司法試験受験生の頃は本当にカミサマのように見えて慕っていたのだが、彼の本当の凄さは狭義の司法試験準備のための講義ではなく(これも超人的に凄いのだが)、本論の合間に出てくる様々な小話を通じて伝わってくる、法律を通じて本当に世の中をよくしていきたいという熱い思いである。
法律家への道が開かれている僕たちは、本当に恵まれている。だからこそ、世の中に恩返しをする義務がある。そんなnoblesse obligeの精神を、彼はよく語っていた。よく出てきたフレーズが、「青臭いと言われても構わない。私はそう信じています」。当時は、「本当に青臭いなぁ」とやや斜に構えて聞いていたが、同時にどこかで魅力を感じていたに違いない。それでも、大学生の多感な頃に、何度も何度も聞かされたから、非常に印象に残っている。
僕は3年次に論文試験に合格してから、卒業するまで伊藤塾で働いていた。とても遠い存在に思えた先生が、社内に入ってみるとすぐそこのドアを開けた部屋にいるため、身近になった。当時はまだ教材もろくにできていなかったので、仲間でみんなで新しい教材を作っていた。少しできるごとに、先生に見てもらうためにドアをノックして中に入って行った。色々と話をするうちに、とても人間臭さを感じるようになった。
その後、日弁連の米国刑事司法制度の視察団に先生が行った際に同行させてもらったり、自分で新しい企画をどんどん立ち上げさせてもらったりと、本当によくしてもらった。卒業してから法律家にならなかったから、なんだか先生に対して申し訳ない気持ちがしていたが、その後も年に一度は会うようにしていて、先生はいつも嬉しそうに僕の新しいチャレンジを応援してくれた。
昨日は帰国の報告も兼ねて、久しぶりに先生を訪ねて渋谷桜ヶ丘の教室を訪れた。僕は若い頃にお世話になった人に会うのが好きだ。それは、本当に何も知らなかった頃の自分の素直な気持ちに戻って、謙虚な気持ちになれるからだと思う。
先生と話しながら、気がついた。HBSで僕が目にしたのは、先生のように青臭い議論を決して恥ずかしがることなくする、世界から集まった若きエリートたちの姿だった。キミの信念は何だ?僕は、自分が信じるものを守るためには何でもする。僕たちは本当に恵まれている、だからこそ、この世界を少しでもよくするような義務を負っている。僕たちにはできるはずだ、この世界を変えることを。
あと、当時は先生が選んだ道を理解することができなかった。これほどの才能を持っている人なら、弁護士としても大活躍できたに違いない。なのになぜ、司法試験学校の校長という道を選んだのだろう?もったいないなぁ。そう思っていた。
しかし、「自分というユニークな個性とエッジを活かした生き方をする」という、最近僕が好きな言葉を話したときに、先生がはじめて話してくれた。僕もちょうど32,33歳の頃、悩んだことがあった。前の予備校で講師として活躍しながら、弁護士業務もたくさんこなしていた。ある外資系企業から、社内弁護士として来てくれと、非常に魅力的なオファーをもらったこともあった。でも、気がついたんだ。自分が本当にやりたいこと、そして自分にしかできない仕事というのがあるということを。それに気がついてからこれまで、僕は毎日をとっても幸せな気持ちで過ごしてきている。決して華やかな仕事ではないかもしれない。それでも、憲法の大切さを多くの人に伝え、そして立派な法律家を育てるという、僕にしかできない仕事があることを。
そう語っている先生の姿は、本当に魅力的だった。先生のように世間体にとらわれずに自分にしかできない仕事を見つけることができた人こそが、本当に幸せなのだと思う。
そして、僕も少しずつ、少しずつ、そんな道を歩んでいけるのだろうか。先生が僕のことを「誇りに思っている」、そう言ってくれたのがとても嬉しかった。まだ何も成し遂げられていないが、先生の青臭い言葉を忘れずれに、これからもひたむきに頑張っていきたい。
心に響いたアップルのCMを思い出した。
http://www.uriahcarpenter.info/
「自分が世界を変えられると
本気で信じる人たちこそが、
本当に世界を変えているのだから。」
当時教え子の中学生と、
初めて共感し合えたことは、
今も、忘れていません。
投稿情報: agent X | 2006年12 月14日 (木) 13:19
青臭いのが最高!世界を変えよう
投稿情報: 六本木あらいのHG | 2006年12 月14日 (木) 09:05