Red Herring 誌の記事("Hedge Funds move into VC turf")を興味深く読んだ。
ヘッジファンドとPEが一部の投資分野で競合するようになっていることは、hedge fund/pe convergence というキーワードで数年前から話題になっていることであり、僕もよくブログで書いていた(例えば、HBSで行なわれたPEカンファレンスでも、これをテーマとしたパネルディスカッションが行なわれていた)。
ただ、去年辺りから面白いと思っていたがなかなかメディアで書かれることがなかったのが、ヘッジファンドによるベンチャー投資の増加。上の記事はこのテーマを本格的に取り上げた興味深い記事である。
この記事では、Youtubeの上場の際に老舗VCのセコイアキャピタルだけでなく、大手ヘッジファンドが投資家として名前を連ねていたことをあげて、期待リターンもVCより低く(IRR 60% vs 23%)、意思決定もずっと速く、かつ経営に口出しをしないヘッジファンドが、その膨大な資金力をもって、これからベンチャー投資のlandscapeを変えかねない、といったことを書いている。
もちろん、VC有数の機能に「足で稼いで案件発掘」というものがあるし、とにかく「手間がかからない」投資を好むヘッジファンドが、創業したばかりのベンチャー企業を探してきて積極的に投資をするとも思えないので、アーリーステージであれば両者が競合することはないだろう。問題となるのは、(従来の日本の証券系・銀行系VCが好むと言われた)IPO手前のレーターステージの投資についてであり、ここでは今後ヘッジファンドが大きな脅威となりうると考える。
資金力でいえば、ベンチャーファンドは数億ドル規模であればそこそこ大きなファンドであるのに対して、ヘッジファンドでは数10億ドル近い資金を持つファンドはおそらく100社以上ある。数百万ドル規模の投資であればほとんどdue diligenceをしなくとも、リスク・リターンの算盤勘定さえ合えば、損を恐れずに投資をしていく。
期待リターンはベンチャー企業特有のリスクから考えれば記事であげられている23%で満足するとは思わないが、いずれにせよ少数の特大ホームランを打たなければならないVCファンドと比べればずっと低くてよいため、プライシングや投資条件についてうるさくいわずに投資をしていくと思われる。
あとは、投資を受ける側の意向次第だろう。例えば米国のクライナーやセコイア級のVCであれば、投資をしてもらっていることそれ自体が非常に大きなcredibilityになるほか、彼らと組んでいることで間違いなくよい経営陣を連れてきたり、筋がよい戦略パートナーとの提携話もスムーズに進むし、顧客に対する営業をする際の信用も高まるため、ベンチャー側からしてもぜひとも投資をしてもらいたい、と思う相手である。
これをわが国でいえば、そこまでの実力と知名度があるベンチャーファンドはまだ存在しない(かなり頑張っているファンドは数社あるが、それでもとてもクライナー級とはいえないだろう)。
とすれば、わが国でも今後ヘッジファンドがベンチャー投資をポートフォリオの一部に積極的に入れるようになれば、経営面では自信があってサポートを不要としないベンチャー企業の経営者からすれば、「カネは出すが口は出さない(すぐ転売されるかも知れないが)」ヘッジファンドは魅力的な投資家となりうるし、さして実力がないVCにとっては競争が高まり、よい案件へのアクセスが妨げられていくことだろう。もっとも、今の法制上、公開株と未公開株の双方を投資対象とするようなファンドは組めないんだっけ?これも、時間の問題であると考えるべきだが。
(追加)少なくともオフショア・ファンドなら大概未公開株・上場株どちらのみという法的制限はないと思いますし。
投稿情報: aquamarinemac | 2006年11 月20日 (月) 05:16
本当のスタートアップならともかく、pre-IPOかそれに準ずる投資だったら、大抵のヘッジファンドが手がけたいと思っているのではないでしょうか。
投稿情報: aquamarinemac | 2006年11 月20日 (月) 05:13
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いろいろ考えさせられることが盛り沢山で非常に勉強になりました。
ところで、一つ質問があります。
HBSの授業についてですが、本の中で「真っ向から反対しあうことで、同じ問題についてもさまざまな見方があり、多面的な視点で問題を考慮する姿勢が自然と実感できる」とありますが、授業の中ではそれをどのような形に収束させ、どのような結論(?)で毎回の授業を締め括るのでしょうか?
投稿情報: 読者 | 2006年11 月20日 (月) 00:20