(サブプライム危機について、ワシントンポスト紙の年末の特集から、ハイライトを抜粋し、解説を交えてお届けします)
話は1987年に遡る。今回のサブプライム危機の震源地になったAIG Financial Products社は、ジャンクボンドで一世を風靡したドレクセル・バーナムのエースだった3名の人間と、グリーンバーグ率いるAIGとの38:62の合弁会社として設立された。
【ドレクセルの「卒業生」は、実は金融界で広く活躍している。金融の先端でイノベーションを生むという顔と、同時にリスクを取ることをおそれず、時には先に走りすぎてしまう、という両面の顔を持つ。】
35歳のハワード・ソシンは金融、30歳のランディー・ラクソンはコンピューターの専門家。この二人に、経済学のPhDを持ち、複雑な金融取引を設計するのが得意だったバリー・ゴールドマンが加わった。彼らはドレクセル時代に金利スワップ取引を編み出し、金融機関と取引を行うことで、大きな収益を上げていた。そして、彼らは世界中の企業が抱えるリスクに対して、ディリバティブと呼ばれる取引を通じてリスクを軽減する手段を提供し、それによって大きな収益を得る機会があると信じていた。
もっとも、彼らがこのような金融イノベーションをビジネスとして大きく推進していくためには、ドレクセルよりも格付けが高く、長期の資金を担保することができる後ろ盾が必要だった。そこで選んだパートナーが、AAAの格付けを持つAIGだったわけだ。
【この「出自」を知って、なぜAIGという保険会社が、これまで広くデリバティブ取引にかかわるようになったのか、大きな疑問が解けた気がした。本体とは別の外人部隊によって設立され、まったく独立に運営されていたのである】
ドレクセルではマイケル・ミルケンの言いなりだった3人は、新会社ではボーナスプールもグリーンバーグとの間で38:62で分ける旨、合意していた。これは、マイクロマネジメントを好み、かつ収益を独り占めしたがるグリーンバーグには珍しい取引であり、後にこのJVの解消の理由となる。
彼らは相対の取引で企業のリスクを引き受ける一方、精緻に組まれたプログラムを活用することで、常にそれを相殺するヘッジ取引を行っていた。のちに市場が効率化していくことで、このような裁定取引によるサヤ抜きの機会は失われていくのだが、当時は確実にヘッジを行うことで、市場がどの方向に行こうとも、必ず収益を上げることができたわけだ。
当時の企業文化としては、必ずヘッジを行うことと、常にそのヘッジが正しいかどうか、お互いの見解を疑ってかかるというものだった。彼らは必ず米国債を買ったりスワップを買ったりと、自分たちが受けた取引を打ち消す逆の取引を行った。同時に、コンピュータープログラムに限界があることを理解し、プログラムと職人の知性、さらに規律のとれたリスク管理の風土が重要であることを認識し、実践していたという。
【あくまで回想やインタビューに基づくものであるが、彼らも当時はおそるおそる取引をやっており、常にリスクは最小限に抑えようとしていたようだ。怖がっているうちは、大胆なことはやらない。のちにコンピューターが発展し、過度にそれに依存するようになったのが、後の失敗の原因なのだろう。】
初年度にはイタリア政府と10億ドルの金利スワップ取引を結び、300万ドルの利益を上げたが、これは当時のウォール街の常識の10倍規模の取引だった。この年、彼らは6千万ドルの利益を上げる。
熾烈な競争が行われる金融界で、協業はこのような収益機会を見逃さない。競争が激しくなるにつれ、単純な金利スワップでは儲けることができなくなり、より複雑な株や為替が絡む取引に拡大していく。
【金融の世界では、アービトラージの機会はすぐになくなる。それでも収益を確保するためには、次から次へと新しい分野に挑戦し、かつレバレッジを大きくしていかなければならなくなる】
同時に、グリーンバーグと3人との間にも亀裂が生じ始めた。ひとつは、ボーナスの配分。ワンマンでAIGを世界一の金融機関に育てたグリーンバーグは、収益の大半を3人のチームに持っていかれるのが気に入らなかったのである。
1993年、このJVは解消された。そして、生みの親であるソシンらが去ることで、すでに複雑化していたAIG Financial Productsという金融マシンは、暴走の第一歩をはじめるのである。
出所:The Beautiful Machine (www.washingtonpost.com より)
(続く って すごく長くなりそう・・・)
すごく面白いです! 勉強になります!
投稿情報: netpipeline | 2009年1 月14日 (水) 19:22
有難うございます。非常に参考になります。
お仕事に差し支えない範囲で続けていただけるととても嬉しいです(>_<)。
原文はこれから昼休憩なので先読みしてきます!
PS
遅くなりまたこの場で恐縮ですが、前回、御社の付加保険料について御解説くださり、有難うございました。御礼申し上げます。
投稿情報: 高槻 | 2009年1 月14日 (水) 11:53