仮に今週マーケットが安定化したとしても、痛みはまだ終わりそうになく、むしろ更に広がる可能性すらある。世界中の金融機関によるクレジット関連の損失は現在5,000億ドルを超えるが、補填された資本は3,500億ドル。この1,500億ドルのギャップを14.5倍(業界平均のギアリング)でレバレッジすると、2兆ドル(≒220兆円)の流動性減少に値する。それゆえ、クレジットの深刻な不足と、更に悪い状況が来ることが予想される。
(www.economist.com "Nightmare on Wall Street" より)
上記記事によると、本来必要なde-leveraging、クレジットの収縮はまだ起こっていない。金融機関が減らした3,000億ドル分の流動性について、ほぼ同額がFedによって供給されたそうだ。市場が本来の規律を取り戻すには、かなり長い時間がかかりそうだ。
最後の最後の局面まで too big to fail を疑わなかった投資家も企業自身も、いつかは政府がシステミックリスクをexcuseとしたモラルハザードに終止符を打つような手立てが打つことを、身をもって知らされた。
もっとも、バブルは決して悪いものではない。過剰な投資によって損失を被る投資家がたくさん出るが、その過剰な投資によって技術進歩が加速化させられる。たとえば、米国ITバブルで何10億ドルものベンチャーキャピタル資金が紙屑になったが、当時の過剰なインフラ投資によって世界のブロードバンド化が急速に進み、中国・インドの台頭などの世界のフラット化を加速度的に進めた。そのような趣旨のことをビル・ゲイツが言っていたらしい(と、フリードマンが新著で書いていた)。
今回のバブル崩壊によって、過剰レバレッジによる無謀なリスクテイクが罰せられ、いずれは資本市場に規律が戻るのだろうが、上記のブロードバンドインフラのように、その過程で生み出されたCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のような革新的な金融技術/商品が、決して投機の手段としてだけでなく、本来的な機能である、信用リスクの切り売りと、それによる資本の効率的な利用という、デリバティブの「正しい」目的に、使われるようになるのだろうか。
さて、どうですかね。
バブルは人間の欲望と過剰な楽観、リスクの過小評価が引き起こすものと思います。そして崩壊すると深く深く人の心に傷を残します。
ITバブル崩壊以降、IT業界へは5年ほど金が入らなくなりました。
今回のサブプライムショックが人々の心に残した傷はあまりにも大きく、価値観や哲学、常識というべきものも吹っ飛ばしてしまった気がします。
例えば「業界平均のギアリングが14.5倍」なんつう無茶苦茶な話は完全に過去の物となるのではないでしょうか?
羹にこりて膾を吹く、という奴でしばらくはCDSやらCDOやらはゲジゲジかエンガチョ扱いでしょう。
つまりた~っぷりプレミアムを要求されるようになる(ので信用リスクの効率的な評価機能や資本の分配機能も果たせなくなる)と思われます。
冗談抜きに、冷戦崩壊以来の価値観の転換が起こっている気がしません?
個人的には、去年の8月で1回リバタリアニズムは死んだ、と思っております。
投稿情報: たに かず | 2008年9 月17日 (水) 01:26