ライフネット生命　副社長のブログ: 7 years later

昼過ぎの便に間に合うかどうか微妙な時間だったけれど、どうしても欲しい本があったので、8時過ぎに宿泊先を出て、赤い線の地下鉄に乗り込んだ。朝寝が大好きな彼女も、この日ばかりは眠い目をこすりながら「私も行く」と言い、眉毛もかかないすっぴん顔のまま、着いてきた。

二日前、面接を受けに来ていた投資ファンドから、想定外の「不採用」を知らされた。すぐに帰る気がしなかったのは、ひとりになりたくなかったからだろうか。馴染みの格安航空券ではなく、先方が手配してくれた正規料金のチケットだったから、電話一本で帰りの便を一日遅らせることは問題なかったが、たかが一日の延泊では心の傷は癒えた気がしなかった。

向かったのは、地下鉄で20分くらい北上したところにある、大学生協の本屋。朝いちばんの授業前に小物を手に取る学生たちで慌ただしかったが、エスカレーターを降りて、目的の本を手に取って、レジに並んで、支払いを済ますまでの時間は、10分足らずだった。

再び地下鉄に乗り込んで南下すると、ドアの入口付近で携帯を手にした男性の話し声が聞こえてきた。「・・・アラブと・・・ユダヤの・・・争いが・・・？」　よくわからないが、その断片的な情報が耳に残った。

のんきに本を袋から取り出しながら読んでいて、10分くらい経った頃だろうか。地下鉄が、急に止まった。公共交通があてにならないこの地では、決して珍しいことではない。通勤中の客も、最初は穏やかな表情だった。

しかし、5分、10分経っても、電車は動こうとしなかった。しまいに20分、30分が経過し、何かがおかしい、と皆が感じ始めた。駅員が前の車両から移動してきた。「どうなってるんですか？！」乗客は、まるで犯人を問い質すように聞くが、駅員も「私も何が起こっているか分からないんです！」と大きな声を張り上げて、早足で次の車両に移動していった。

何かがおかしい。でも、それが何なのかは、携帯の電波が繋がらない地下に閉じ込められた状況では、ヒントすら得ることができなかった。ああ、飛行機、間に合わないな。もう一泊か。仕事はしていなかったので、急いで帰る必要もなかったからか、自分にしてはやけに落ち着いて、ただ時間が過ぎるのを待った。

約1時間が経過したそのとき。地下鉄の車両がようやく、動き出した。ただし、進行方向とは逆の方向に。電車は最寄りの駅まで引き返して、そこでドアが開いた。乗客は、迷惑そうに早足で、階段を駆け上った。

地上に出ると、すぐに気配がおかしいことに気がついた。最初は、何がいつもと違うのか、分からなかった。よく見ると、通行人がみな立ち止まっていた。あるはずの人の流れが、そこにはなかった。

14丁目の横通りから7番街の大通りに出て右方向を見ると、その理由が分かった。

7番街から見える南の空は、もくもくと立ち上る煙で真っ黒だった。教科書で見た原爆の写真のように、おぞましい形をしていた。

ノストラダムスの大予言のように、世界が終ってしまうのか？脳裏をよぎったのは、そんないささか子供めいた考えだった。

すぐ近くに止まった車のドアを開けて、ラジオを大きく流しているところに、ひとだかりができていた。その横を、血を流している人が走って行った。

「何があったんですか？」

「ワールドトレードセンターに、、、飛行機が2台突っ込んだ、、、あとは、何もわからない、、、」

ＷＴＣ？彼女の家から徒歩5分。ちょうど昨日の晩、友人らと最上階の眺めがいいバーに行こうとして、自分が半ズボンとサンダルだったから断られたばっかり。今朝だって、一歩間違えれば、あそこに行っていたかもしれない・・・

足がガクガク震えた。何がなんだか分からず、隣にいた彼女を、抱きしめた。とにかく、怖かった。これから、どうなっちゃうんだろう？第三次世界大戦が勃発する？このマンハッタンの街で、暴動とか起きない？彼女のアパートは？

これが、僕の7年前の今日の思い出。犠牲者の皆様のご冥福をお祈りします。

5 コメント

最初のコメント主です。

本件、ご迷惑をおかけしました。最初に、7年後のことかと思ってみたら、昔の話だったので、勢いで勝手な老婆心からコメントしたものの、コメント後に「ああ、あれから7年」ってことだったので、早とちりしてしまったなと思って、赤面ものだと感じておりました。コメントの消し方がわからなかったので、そのままにしちゃってたのですが、コメントが増えていたようで・・・

申し訳ないです。ただの早とちりと読解力不足ですので、私からも本件のクローズをお願いいたします。

投稿情報: 通りすがりです。 | 2008年9 月18日 (木) 11:54