今日の日経新聞17面は、「ネット生保 本当にお得?」という特集。「ネット生保の保険料は本当に安いのか、利用時の注意点は何か」についてわかりやすい整理がなされている。
主要なメディアはバランスのとれた報道をするために、必ずメリットとともにデメリットについて触れる。本記事では、本文でネット生保の価格的優位性を丁寧にまとめたのち、最後のコラムでネット生保を利用する際の注意点として、以下の3点を掲げている:
- 問い合わせが基本的にはインターネットと電話でしかできない。既存生保のように営業員が商品の詳しい説明をしてくれるわけではない。
- 新設の会社だから、破たんリスクが判定しづらい
- ネット上の必要保障額の試算が必要以上になる場合がある
これらは総論ではその通りなのだが、ここではもう少し掘り下げてみよう。
まず、一点目については、①バイアスのかかっていない説明を聞くことができ、②時間に余裕があり、かつ③対面で説明を受けるための対価が安価であれば、面談の時間を取って、対面できっちり説明してもらえるにこしたことはない。
しかし、対面型営業には、誰しも肌で感じている、構造的な課題がある。目の前にいる営業員は、あなたに生保を売ろうとする強力なインセンティブを追っていることである。セールスの給与体系が歩合制に近ければ近いほど、その誘因は大きい。あるサイトによると、外資系生保のコミッションは初年度保険料の3割から5割。保険料が毎月2万円の商品であれば、保険に加入してもらうことで、営業員は10万円を手にすることになる。
あなたは、百戦錬磨の生保営業マンと対峙して、自分が必要な情報だけを、中立公平な商品説明を引き出すことができるだろうか?私自身は、そんな自信はないので、むしろ自分のペースでインターネットで情報をふんだんにくれて、分からないことがあったら電話やメールで教えてもらえる方が便利だと考える。
そして、保障商品は極めてシンプルであれば、コンサルティングは必要ない。死亡保険であれば、本質的には①いくら保険をかけたいか、②保険料はいくら払ってもいいか、③期間をどう設定するか、の選択だけである。保険料1300円で1000万円か、保険料3500円で3000万円を選ぶか。まずは10年にするか、いまから20年入っておくか。そういったことを選ぶ作業にほかならない。
ちなみに、欧米のように生命保険が資産運用の重要な役割を占める場合は、ポートフォリオ管理や相続対策、税務問題など、コンサルティングが必要となろう。わが国の生保のコンサルティングは、このような資産コンサルティングまで踏み込んでは行われておらず、「保険選び」のお手伝いにすぎないいるのは一部に過ぎないのではないか。その違いは、欧米の有力保険会社のHPを見てみれば明らかである。
この点、FACTAセミナーでご一緒した、辣腕ライフプラナーの大坪氏も、「アメリカの同業者と意見交換して、コミッションの大半を死亡保障ではなく、資産運用商品で稼いでいると聞いて、目からウロコだった。これからは我々も資産管理の提案力を身につけていかなければならない」といった趣旨のことを話されていた。
二点目については、どんな業界であっても、新設会社は将来どうなっているか分からないし、抽象的に「破たんリスク」を論じても分かりにくい。生保について具体的にみると、ポイントは三つある。
(1) まず、過去に破たんした生命保険会社は、高すぎる予定利率を長期にわたって保証したことや、資産運用を失敗したことによる。当社は予定利率が問題になる商品はなく、運用は高格付けの債券で行っている。
(2) 次に、生保業界には、「生命保険契約者保護機構」なるものがあり、破たんした時点の補償対象契約の責任準備金等(≠払い込んだ保険料、という点は注意が必要だが)の90%までが補償されることになっている。
(3) そして、掛け捨ての保険だけを取り扱っている場合、仮にX年後に経営が厳しくなったとしても、そのX年間は払い込んだ分の保障を受けてきたのであり、貯蓄性の商品とはまったく性質が異なる。上記の保護機構HPでも、以下のように書かれている:
『定期保険等の保障性の高い保険(掛け捨て型の保険)の場合、もともと責任準備金の額が少ないため(契約終了時にはゼロとなります)、責任準備金等の削減や予定利率の引下げの影響が比較的軽微で、一般に保険金額の減少幅も小さくなる(または減少しない)傾向があります。』
このように、抽象的な「破たんの可能性」ではなく、どのような場合に破たんが起こるのか、その場合にどういう処理がなされるのかは、理解した上で判断する必要がある。
三点目については、シミュレーションはあくまでもシミュレーションなので、前提条件を少し変えただけで、結果は大きく変わってくる。そこで、ライフネット生命の必要保障額シミュレーションでは、「残された家族がもっと働く」とか、「質素に暮らす」とか、「子どもの学校は公立にする」というボタンを付けることで、結果の幅を見やすくした。
もっとも、ネット生保にデメリットが一切ない、と言っているわけではない。100年続いている会社の安心感、対面営業マンのかゆいところに手が届くサービスは、それはそれで貴重であるし、価値は高いだろう。
問題は、それに対していくらの対価を払うか、である。生命保険は長期にわたって支払うため、月に数千円の違いにすぎなくても、1年では数万円、10年では数十万円の差になりうる。生命保険について何か聞きたいことがあったときに対面で来てもらえる、そのサービスに10年で数十万円の手数料を余分に支払うか。あるいは、ちょっとは面倒だが、ネットで情報収集をして、わからないことがあったら電話で聞くことでよしとし、差額の数十万円を保険のような「守り」のためでなく、投資・運用や、旅行や食事といった、もっと前向きなことに使って、人生を楽しむか。
梅田望夫氏は当社の挑戦を評して、「これは選挙と一緒だ」と言われた。私も、そうだと思っている。だからこそ、我々はマニフェストなるものも作り、思いを声高く掲げている。生命保険についても手数料をもっと意識し、それが長期にわたって高額であることを理解し、新しい時代に合ったセルフサービスの新しいモデルに乗り換えて、差額で自分らしい生き方を選ぶか。
それこそが、本質的にお客様が迫られる、選択である。
ネット生保の保険料は本当に安いのか?という事は、私も常々疑問に思っていた所です。
参考になりました。
投稿情報: chiaki0423 | 2010年9 月 9日 (木) 16:07
大坪さんのコメント、以下の通りでした:
「金融先進国である英米の同業者に売上の中身を聞くと、日本でいうところの生命保険のコミッション比率は概ね2~4割位で、大部分はアセット(※資産を預かって運用するサービス)だと言うんですね。保険商品では何を多く売っているのかというと、アカウント商品、所得補償保険、介護保険の3つを挙げる人が多かった。僕のコミッションの半分を占める定期保険なんて、年に1回売ったかなといった人もいるぐらいで、比率の違いに驚きました。
日本の場合は、保険会社と証券会社でテリトリーがはっきり分かれていますが、米国では流通部分が完全に融合しています。消費者からみればその方が合理的で、分離しているのはあくまで供給側のロジックなんですよね。」
http://facta.co.jp/blog/archives/20071225000576.html
投稿情報: Daisuke | 2008年6 月23日 (月) 11:02
岩瀬さん、真摯な対応有難うございます。
また、メールをいただき恐縮です。
私も書きすぎたような気もしてたので(いつも「発信サイド」に批評するほうが楽なのに・・・と自省してます)悪意がないことが分かってもらえてよかったです。
立場(セールスチャネル)は異なりますが、業界をよくしたいという考えは一緒だと思います。
ご指摘、ご依頼の件は必ずコメント欄で私見を述べます。
また深夜になると思いますが・・・。
取り急ぎメールの返信の代わりに御礼まで。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年6 月23日 (月) 08:15
> 通りすがりの外資生保 さん、
ご無沙汰しております!先日は当社にお越し頂き、どうもありがとうございました。また、表現につき、ご指摘あった箇所、ちょっと修正しました。
私自身が受けた外資系生保のコンサルティング経験(某社に4年ほど加入していました)、及び周囲の人間の経験から語っていたのですが、通りすがりの外資生保さん(長いので、ニックネームつけません?)のように上位の方は、そこまでやられているのですね。理解不足で、失礼いたしました。生保のコンサルが「保険選びのお手伝い」という表現は、正しくないのでしょうか。
ところで、「終身(死亡)保険のほうがリバースモーゲージの変形みたいな形で資産と認識され」の部分が、ちょっと分かりにくかったので、また教えてください。私自身は、終身保険は「満期106歳の養老保険」=「高いローディングの定期保険+解約ペナルティ付き・低い予定利率の 60~70年定期預金」と認識していますので、お客さまにとって、他の投資運用商品と比べて、それほど有利な商品であるとは考えていないのですが。
あと、通りすがりさんは、終身保険の上に医療特約は勧めておられないのでしょうか?今度また、ご議論させてください。
> i004099さん、
はじめまして!競合他社の代理店の方とお見受けしました。
死亡保険については、ご存じの取り、各社ともに「標準生命表2007」をベースとしていますので、基盤商品の発生率の部分では差異はあまり出ず、付加保険料部分がそのまま保険料に跳ね返っています。
これに対して、医療保険については、発生率について各社が経験表を使っており、当社のように新設会社で、かつ親会社に保険会社がいない会社は、厚生労働省の「患者調査」など、全国民を対象とした公的なデータを使わざるを得ず、付加保険料を低くしても、必ずしも保険料合計ですべての会社よりも安くなるわけではない、ということです。それでも、業界全体では「安いグループ」に入っているとは思いますが。
そして、この点はあくまでも保険料設定の基礎率となるデータの問題であり、引受査定時の基準とは関係ありませんので、「医療保険の給付金を過大に支払わなければいけないリスクは、決して低くない」というご懸念は該当しません。引き受けをどれだけ厳しくやるか、という問題でしょう。
当社の商品は、「手術給付金なし」というものもありますので、たとえば新聞記載の30歳・1万円・60日の終身でいうと、3,737円→3,072円となります。貴社の商品とも、まったく同等の条件ではありませんが、比べてみて頂ければと思います。
投稿情報: Daisuke | 2008年6 月23日 (月) 00:24
>欧米のように生命保険が資産運用の重要な役割を占める場合は、ポートフォリオ管理や相続対策、税務問題など、コンサルティングが必要となろう。わが国の生保のコンサルティングは、このような資産コンサルティングまで踏み込んでは行われておらず、「保険選び」のお手伝いにすぎない。
おっと、この断定はとっても心外ですね^^;
(一部の人間かもしれませんが)ポートフォリオ管理はともかく、相続や税務はちゃんと手掛けてますよ。
「保険選びのお手伝いにすぎない」とは、私たちの仕事を蔑んだちょっと酷い発言ではないでしょうか?
それから↓のi004099さんのコメントはかなり鋭いですね。
保険業界全体として医療保険はやりすぎではないでしょうか。
医業経営の観点から入院→外来治療への移行は明確だと考えます。
個人的には、終身(死亡)保険のほうがリバースモーゲージの変形みたいな形で資産と認識され、お客様の役に立つ気がしてなりません。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年6 月22日 (日) 23:29
日経の記事読みました。
多分、多くの読者が気になったのは、医療保険についての内容だと思います。
加入者の蓄積データがないので、医療保険の保険料は下げられないという話は本当なのでしょうか。それは言い換えると、医療データを保持していないので、医療保険の給付金を過大に支払わなければいけないリスクは、決して低くないと考えてよろしいのでしょうか。であるならば、そんなリスクの高さがゆえに、保険を安くできない医療保険の販売はやめ、死亡保険だけ単品販売すべきではないでしょうか。その方が、「保険料の安さ」を強く訴え、「保険のわかりやすさ」を第一にしている御社のポリシーに合致すると思うのですがいかがでしょうか。それとも死亡保険では利益が出せないので、医療保険で利益を出そうという販売戦略なのでしょうか。
投稿情報: i004099 | 2008年6 月22日 (日) 18:16