日本人は、生命保険(特に死亡保障)が大好き。その理由に関する理論的な分析を、神戸大学の久保教授の著作「生命保険業の新潮流と将来像」(2005年、千倉書房)に見た。
個人が加入している保険の保障総額を名目GDPで除した「マクロ保障倍率」を国際比較すると、アメリカやイギリスがほぼ名目GDPの1倍程度であるのに対して、日本人は民間生保だけで2.3倍、これに簡保・JA共済を足すと3.1倍とずば抜けて高い。
なぜだろう?
久保教授は、この「マクロ保障倍率」を以下の4つに分解して分析している:
① 保障単価: 個人の保障総額 ÷ 個人が払っている生保 保険料
② 年金よりも生保を選ぶ割合: 生保保険料÷(生保+年金 保険料)
③ 生保プレゼンス: (生保+年金 保険料)÷個人所得
④ マクロ経済における家計のウェイト: 個人所得÷名目GDP
① × ② × ③ × ④ = 個人の保障総額 ÷ 名目GDP
歴史的に見ると、1970年以前は日米のマクロ保障倍率は0.7倍前後でほとんど変わらないが、30年間で大きく開きが出た。おもな要因は、②「個人保険選好」と、③生保プレゼンスの違いである。
③生保プレゼンスが日本で高くなっていったのは、アメリカの生命保険業界が銀行、証券、投資信託との厳しい競合にさらされていたのに対し、日本の生命保険業界は、規制の強い金融行政の保護下で、拡大する家計所得や個人金融資産を上手に取り込んでいけたことによるそうだ。
②が日本人の「(年金・貯蓄より)死亡保険好き」の部分だが、これは、女性の自立と個人年金の販売が進んだアメリカに対して、女性の労働力率の改善が停滞し、死亡保障ニーズが強く残ったことと、我が国の手厚い公的年金制度が個人保険による年金資金の準備が進まなかったことによるとのこと。
以上について久保教授は、「金融自由化の遅れ、女性の労働力率の低位安定、そして手厚い公的年金制度が、日本の巨大な保障市場を生み、高いマクロ保障倍率を維持してきたことになる」としめくくっている。
それでは、今後はどうなるか?金融の自由化がますます進み、女性の社会進出も進み、そして公的年金制度が揺らいでいるなか、従来のような「死亡保障漬け」の状態は解消され、過剰保障とも思われる資金が解放され、より老後の資産形成の方向へ向かっていくのではないか。
日本人の「生保好き」は国民性のDNAにインプラントされているところもあるが、他方でこのようなマクロの分析によると、これがいつまでも続くわけではない、そう考えざるを得ない。そして、そのようなトレンドの中で求められるのは、保障部分の保険料をできるだけ抑えて、より老後資産形成へ資金をシフトしていくことではないだろうか。
いつもブログ拝見させていただいております。
ご指摘の土壌はあるにせよ、日本人は保障好きなどではなく、やはり老舗生保の、営業職員チャネルによる、危険差益に重点を置いたというよりも保険金額に重点を置いたという方が正しいかもしれない、販売行政の結果だと思います。
厳密な裏付けにはなっていませんが、
・商品認可・医療水準の面で危険差益が見込める商品設計が可能
・国民の生活水準が一定レベルに達している
・老舗日本生保の販売ノウハウを輸入し営業職員チャネルを発達させている
以上3点を満たす東南アジアの国はアメリカやイギリスに比べ保障好きと言える現状ではないかと思います。
単に既存商品を廉価で販売するというビジネスモデルにとどまらない新しいネット生保の誕生を期待しています。頑張って下さい。
投稿情報: 自由人 | 2008年3 月18日 (火) 20:42
(20代の独身の男の子が)医療保険や傷害保険の目的で2000万円とか3000万円の(死亡保障とパッケージ化された)定期付終身(あるいはファンド型)に加入しているんですから。。。
と訂正。
毎回すみません^^;
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年3 月14日 (金) 00:27
こんばんは^^
日本人が死亡保障好きというよりも、死差益を大きな利益源とする生保各社が保険(や金融)リテラシーの低い消費者にそういった商品を提供してきた結果じゃないでしょうか?
最近は少なくなってきているとは思いますが、貯蓄として生存給付金付定期に加入している若い独身女性や、医療保険や傷害保険目的で2000万円とか3000万円の定期付終身(あるいはファンド型)に加入しているんですから。。。
ちなみに
>我が国の手厚い公的年金制度が個人保険による年金資金の準備が進まなかったことによるとのこと。
著者は老齢年金をイメージして書かれていると思いますが、手厚い公的年金=遺族年金(世帯主が準備すべき死亡保障の代替)でもあるんですよね。
つまりそれを理由に死亡保障が普及しなかったという逆のロジックを仕上げることも可能で、やっぱりこの状況は前述の2つが原因だろうと個人的には考えてます。
ちなみに公的年金が揺らげば、死亡保障は追加のチャンスだと思います。
投稿情報: 通りすがりの外資生保 | 2008年3 月13日 (木) 22:10