日興コーディアルグループの不正会計事件に関する特別調査委員会の調査結果が公表された。サマリーは今朝の日経に掲載されていたが、興味があるので、120ページの本文をダウンロードして読み始めている。「事実は小説よりも奇怪なり」とはよくぞいったもので、非常に知的好奇心をそそる内容でもある。
僕が興味があるのは、「担当者をこのような行為にかきたてた動機はなにか?」ということ。今回もそうだと思うのだが、企業の不正問題は「悪い人が悪いことをやる」のではなく、我々とは何も代わらない「普通」の、等身大のビジネスパーソンが、結果的に違法とみなされる行為に手を染めてしまうことに特長がある。
それゆえ、「こんな悪いことをした悪いやつらだ」という論調で責めてしまうのは余り意味がなく、「自分がその立場にいたらどのように考え、どのように行動したのだろう?なぜ、彼らはこのようなことをしたのだろう?」と考える方が大切であると思う。
まだざーっとしか目を通していないのだが(「補助教材」として、isologueの関連エントリーを参照しました)、要するにポイントは
「ある時点においてかなりの含み益が生じていた株式について、どのように当期の決算で一部利益を計上するかということを考えて、その手段としてデリバティブをバックデートで発行したことにした」
ということのよう。
投資子会社の担当者たちのボーナスは経常利益と連動していたので、自分たちの「手柄」を、できるだけ早いタイミングで計上しよう、という誘引が働いていたのかもしれない。「本来相殺されるべきであったデリバティブの益を不正計上した」という風に報道されていますが、担当者の感覚としては「ずるをする」というより、保有している株式の含み益を、「すでに会社にとって(時価ベースで考えると)儲かっているのだから、それを会計ルール上許される範囲で計上するのはいいのではないか」と考えていたような気がする。
「100円で買ったものが120円になっており、(その後非上場化したので時価はつかなくなる)、20円全部設けたとは言わないが、5円くらいは利益つけちゃってもいいんじゃん」という感覚で、あとはペーパー処理の問題ということで、日付をずらしてデリバティブを発行したことにしたのだろう。
これはisologueの磯崎さんも指摘していることだが、会計上の数字は「客観的に正しい一つの真実」ではなく、「客観的な事実に基づいて、自分たちの意思をこめて表現したもの」であり、多分に解釈や判断を含むものである。したがって、今回の問題も何か「捏造した」という風に考えてしまうのは間違っている(もちろん、日付のバックデートは不正ですが)。ある程度判断の裁量がある中で、アグレッシブに行き過ぎて一線を越えてしまった、という風に考える方が正しい。
今回の事件も、一部の「悪い人」が起こしたものと他人事のように思ってしまってはいけない。我々と彼らとの間にはなんら差はなく、高い志のようなものと、自分なりの「ぶれない判断軸」をきちんともっていない限りは、いつ我々が彼らの立場になってしまうか分からない、そういう気持ちをもって、この調査報告書に目を通したいものだ。
はじめましてTOKIAです。
ご意見読ませていただきましたが、そういう視点から見れる人もいるんだな、とほっとしました。
岩瀬さんのご活躍、期待していますし同年代として「いやいやこっちも頑張ってるよ」と言えるように、一歩ずつ着実に進んでいこうと思った次第です。
いつかお会いできればよいですね。
では!
投稿情報: TOKIA | 2007年2 月 8日 (木) 23:39
いい指摘ですね。全くおっしゃるとおり。尋常ではないモラルとインテグリティが求められます!気をつけて!!
投稿情報: 六本木あらいのHG | 2007年2 月 1日 (木) 08:43
『MBA留学記』非常に楽しく読ませていただきました。
既知かもしれませんが、1/26付(多分です、ゴメンナサイ)朝日新聞朝刊の短期連載「消費者パワー・4 日米比較」という連載があって、「保険の苦情、比較の目」という記事がありました。第三者機関が保険会社に対して目を光らせて、それらを消費者に無償で情報提供しているというものですが、非常によいサービスだと思いました。これからのチャレンジは大変なことも多々あるとは思いますが、期待しております。がんばってください!
投稿情報: 某出版社社員 | 2007年2 月 1日 (木) 00:21