梅田さんのブログで紹介されていた、「お金のリテラシー」に関するエントリーを読んで、例えば自分の子どもたちに教えたい、本当のファイナンシャル・リテラシーとは何か、考えてみた。
上のエントリーでは「資本を提供したら増えて帰ってくる」、「資本を借りたら幾ばくかの金利を払わなければならない」なる資本主義の基本原則が述べられている。
しかし、金融業界に身をおくものとして、僕は「お金のリテラシー」の本質は資本コストでも割引現在価値でもポートフォリオ理論でもなく、もっともっとシンプルなものであると思う。以下、考えた「5つのルール」:
- ルール#1:お金については、管理や理解に時間と労力を使うかどうかによって、最終的に手元に残るお金は大きくかわる。だから、さぼらずにまずは努力をしてみよう。
お金と向かい合うのは何かと面倒だから、できたら考えたくもない。でもその結果、不要なものにお金を払い続けたり、世の中にもっとお得な商品に気がつかずに、高値で払い続けているものがたくさんある。数時間の労力で月に数千円セーブできたら、長期にわたっては数10万円の節約となる。時給10万円の仕事だと思ったら、ワルクないでしょう?そんな基本原則を理解することが、最初の一歩。
- ルール#2:お金は難しいことも少なくないが、お金に詳しい人は、世の中にごまんといる。自分で理解できなくてもいいので、信頼できるアドバイザー(ウェブサイトや本でもOK)を見つけ、その人を上手に活用しよう
そうはいっても、おカネなんだか難しいことばかり。得意不得意もあるから、勉強しようと思ってマネー雑誌を手にとってみても、なかなか分からないことばかり。そんなときは、周りに聞いてみよう。何人かに一人は、必ず同じ問題を考えたことがある、詳しい人がいる。周りにいなかったら、銀行の窓口にでも行ってみよう。喜んで説明をしてくれるはず。ネットで調べて、掲示板で聞いてみよう。それでも分からなかったら、ファイナンシャルプラナーに相談してみてもいい。仮に数万円の手数料を払っても、それで数10万円をセーブできたなら、十分にペイすることを忘れずに。
- ルール#3:金融市場は効率的であるから、金融商品には「おトク」というものはない。すべてはトレード・オフの関係にある(リターンが高いものは、リスクが高いか、コストが高い)。これを徹底して理解せよ。そして、自分にとってそのトレードオフのどの要素がより大切かを、考えて選ぶようにせよ。
これが、金融商品で失敗しない、もっとも本質であるように思う。例えば外貨預金は金利が高いが、為替リスクで損をする可能性が伴う。医療保険で「日帰り入院から支給!」というものは、その分保険料が高い。変動金利の住宅ローンは、当面は金利が安いが、将来の金利上昇局面では金利が高くなる。インド株は大幅な上昇が見込めるかも知れないが、ボラティリティが高く、大きくやけどをする可能性もある。自分はどっちを選ぶか?大切なのはこれらのトレードオフをきちんと理解した上で、自分なりのinformed decisionをすることだろう。
- ルール#4:お金をもっていても幸せになれていない人はたくさんいる。お金を持っていなくても、幸せな人はたくさんいる。足ることを知るとともに、お金は手段に過ぎないことを理解し、自分にとって本当の幸せとは何か、考えることこそが大切。
「もっとお金があればハッピーになれる」とつい思いがちだが、いざ持ってみても、すぐにその状態に慣れてしまってありがたみが薄れてしまう。以下、最近座右の書としている「菜根譚」より:
『華美な生活をしている者は、どれだけ富んでいても、欲望を満たすためにおわれて、いつも不足がちである。質素倹約をしている者が、貧しくとも、何事もつつましく控え目で、常に少しずつ余裕をもって生活していくのには及ばない。ぜいたくな生活より倹約な生活の方がどれほどよいかわからない。』
- ルール#5:世の中のほとんどは、極めてシンプルなものでできている。自分が理解できるものしか、取り扱わない。理解できないものには、手を出さない。
伝説のトレーダー藤巻氏は長期金利の方向性にだけベットして、その名を馳せた。生命保険も、本来「死んだらいくら、入院したらいくら」というシンプルなもので用は足りるはず。ファンシーな名前や機能がもりだくさんの金融商品もたくさんあるが、基本的にはシンプルな機能だけでも十二分に役を果たす。いたずらに複雑なものは、たいてい消費者から不必要なマージンを抜くために設計されているだけ。
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というわけで、これらの基本原則さえ叩き込むことができれば、お金で失敗をするようなことはないと思う。最終的に経済だとかお金のことは、人の価値観や世界観が反映されるものである。だとすれば、あまり技術的な知識やスキルの習得に走ることなく、上記の原則を自分の隅々まで浸透させた上で、より広い世界観と深い人生観を養うことに集中した方が、最終的な幸福感は高まるかも。
はじめまして。ときどきうかがって読ませていただいておりますbunと申します。
>基本的にはシンプルな機能だけでも十二分に役を果たす。
保険については私も同感でして、県民共済だけ使っています。割戻の額が大きいしや新聞の事故のニュースで被害者の名前をみて照合し、被保険者であれば保険金の請求をおすすめしに行くそうで、良心的だなと思いました。貴殿が○○共済とどうわたりあっていかれるのかに注目しています。
それから日本の社会はフリーライダーを徹底的に嫌っていて極力保険に頼らないようにする性向が理不尽なほど強い社会だと思っています。貸倒の引き当て不足などをみてもそういう性向が感じとれます。今後こういう特徴がどう変化していくのかにも注目しています。
投稿情報: bun | 2007年4 月 9日 (月) 07:22
いつも読ませていただいてます!!
頭が良くても謙虚なとこが岩瀬さんの一番すごいところだとつくずく感じます!
これからもお体に気をつけて頑張って下さい。
投稿情報: take | 2007年4 月 9日 (月) 00:52
初めまして、伊藤塾の後輩の者です。今、20期生として渋谷に通っています。
>最終的に経済だとかお金のことは、人の価値観や世界観が反映されるものである。だとすれば、あまり技術的な知識やスキルの習得に走ることなく、上記の原則を自分の隅々まで浸透させた上で、より広い世界観と深い人生観を養うことに集中した方が、最終的な幸福感は高まるかも。
この「だとすれば」には納得させられました。
僕も、色々学びつつ、自分の世界観を広げつつ、
結果として経済やお金とも深い付き合いが出来るようになりたいです。
生保立ち上げ、頑張ってください!
投稿情報: jukucho | 2007年4 月 6日 (金) 23:22
>お金をもっていても幸せになれていない人はたくさんいる。お金を持っていなくても、幸せな人はたくさんいる。
大きくうなづいてしまいます。確かに今は昔よりお金はあるけど、余りお金がなかった昔の方が幸せだった気がする。自分にとっての幸せは物を買えたりすることではなく、静かな図書館で本を読んだり勉強することで十分に満たされていた。今はその暇すらない...
投稿情報: ktsuka | 2007年4 月 6日 (金) 14:24
参照ありがとうございます。
この5つのルールを「いつ」身につけるかが本当に大事だと思います。日本の場合教育がその責務を負っていないので、親から子へ、または気づいた人が自力で、ってなっているため、社会に出る前に身につけられればコンセプト先行でいいと思うのですが、知らずに社会に出て走り始めてしまった場合、木村氏の提案する具体的な向きの変え方、が必要になってくると思います。保険リテラシーも同じですね。
「本当の保険・リテラシー」を日本に広めてください。期待しています!
投稿情報: JunSeita | 2007年4 月 6日 (金) 02:57
いつもではないですがハーバード留学記の頃から読ませてもらってます。
当時(3,4年前)は留学と言うもの,ハーバードに留学するということはどういったものなのか,どういった雰囲気を味わえるのかということをなんとなく知るために読ませてもらってました。
ですが,『立ち上げ日誌』になってからは僕自身が大学生になったということもあり,金融業界はどういった感じなのか,将来の仕事はどんな感じ,将来の仕事と自分が今やってることはどうつながっているのかみたいなことを少しずつ理解するために読ませてもらってます。
そこで唐突なんですがひとつ質問があります。
それは
「岩瀬さんが経験してきた職業の中で数学ってどれほど役に立ってきたのか?」
ということです。
僕は今とある私立大学の商学部の2年生なんですが,僕の大学は結構伝統的に数学を重んじる傾向があります。そのためかやはり周りの友達とかを見ていても数学系の講義を自主的に選択する人が多いです。
でも僕はそんななかでふと疑問に思うのです。
「世の中でそれほど数学って必要とされているのか?」と。
必要とされてないんならやらなくてもいいじゃないか!!と言いたい訳じゃありません。
他の科目と比較してそれほどまでに重要視される理由が僕にはいまひとつわからないのです。
数学ひとつがそこまで重要じゃないならゼミのない今のうちにいろんな分野のことも広く浅く学んでおきたいんです。
いきなりのコメントが質問で本当に失礼だとは思うのですが,こういう大事(僕の中ではの話です)なことはビジネスマンとして憧れの人に聞いておきたかったので質問させていただきました。
良ければ意見を聞かせてください。
よろしくお願いします。
投稿情報: たく | 2007年4 月 6日 (金) 02:41
こんにちは。
実際に、ある外資系の戦術は、保険はシンプルであることを説明して、日本の保険会社が設計した商品がいかに複雑で、フィットしていないかを気づかせるという手法でした。
そういったことをネットでどうアプローチするかがカギとなりそうですね。最近「クチコミの技術」が話題ですが、ブロガーを見方につけるのは当然一案かと思います。
ただ、もっとも保険を必要とする人は、ITとマネーのリテラシーが高くない人にも数多くいるのではと推測します。そこをどう捉えるか、セグメントを割り切るか、でしょうか。
すみません、細かいことを書きすぎました。ちょっと気になりましたので。。。
投稿情報: Financier | 2007年4 月 5日 (木) 23:23