よく聞かれる質問の一つが、「なぜお前はHBSで優秀賞(上位5%)を取ることができたのか?」というもの。「いやいや、まぐれです~」と謙遜してみてもよいのですが、これでは余り示唆がないので、自分なりの分析・理解を、以下書いてみます。
まず、HBSでは「成績」は基本的に
① 授業中の発言(質×量): 約50%
② 学期末試験: 約50%
で評価*されることになっています。
* 各コースについて、この点数をベースに1(上位15~20%)、2(真ん中)、3(下位5~10%)の三段階に分ける。これらの三段階評価の積み上げをベースに、全体で5%以内に入った人間がBaker Scholarとなる、という仕組み。大まかな目安としては、全体の70%以上が1であれば毎年もらえているようでした。
① 授業中の発言(質×量)
(i) 発言の質
発言の質については、「クラスメートの議論を一歩前に進めるような発言」であるかどうかが基準。そのためには、皆とは違う視点で「オモシロい」ことを言うことが大切。そしてこの「オモシロい」ことを言うためには、二つのことが必要だと感じた。
a) 予習の量
本文と添付の細かいデータなどを丹念にみて、意見の整理やきちんと裏づけをもった分析がなされていることが大切なのですが、これには時間がかかる。一つのケースでも平均2~3時間はかかると言われているので、きちんと時間を取ってまじめにやるかというのが重要。
b) 視点のオモシロさ
視点については、これが難しいし色々なやり方があるのですが、僕の場合は「大勢とは違うことを言う」ということを意識していました。授業が80分のところ、最初の40分くらいは議論を注意深く聞いている。ある程度流れができて、理解できたところで、その流れとは異なる新しい議論の流れを作るような発言を試みる。具体的にはかつてブログで書いたことがあるのですが(ハーバード留学記「insightとは?-2005/9/26」)、「定性的な議論が多いときは、データをグリグリ分析して定量的なファクツで勝負する」とか、「細かい議論になっているときは、レンズをぐっと引いてビッグピクチャーの議論に戻す」とかいったところです。これはBCG社内でいう「オモシロサ」と似ていて、御立さんの本でも色々書かれているところ。
(ii) 発言の量
最初の学期は皆がわれもわれもと手を上げているのですが、これが冬学期になり、そして2年目になると、段々皆の熱意も下がってきて、さほど予習しないで授業に臨む人が増えてくる。その中で、2年生の最終学期の最後の授業まで、集中力を切らすことなく、毎日予習を続ける。そして、「もういいかな」と思わず、しつこく手を上げ続ける。何気に、この「根気」が一番難しく大切なものかもしれませぬ。
② 学期末試験
試験もアカデミックなものではなく、実在の企業の事例が渡され、「当事者は何をすべきか?現状の問題分析と解決策・アクションプランを示せ」という問題がなされる。約4時間半でケースをダウンロードして印刷してから、エクセルなどを使って分析して、回答を書きあげるというもの。これも例えるならば、社長に呼び出されて「こういう問題があって、どうすべきか分析と提案を書いて欲しいんだけど」と言われて、4時間後までに準備する、そういった実際のビジネスの現場(こんなに短時間でまとめることは少ないでしょうが)とも似ています。
とはいえ、試験は一発勝負なので、評価基準を読み違えて全然違う回答を書いてしまい、あっちゃーという成績をもらうことも前半戦何度かありました。それからは、どれだけ試験でコケテもなお総合で上位の評価がもらえるよう発言で頑張ろう、そういう風に臨むことにしました。
以上ですが、少しは参考になりましたでしょうか?
すっかり年末になってしまいました。風邪が流行っているようですが、ご自愛ください。
Everyone have a happy weekend!
cpainvestorさん、ブログでご紹介いただき有難うございました。今後ともよろしくお願いいたします。
farveさん、偉そうなことを書きましたが、要は着眼点だと思います。努力というかフォーカスのポイントを、人とずらすこと。これも訓練によって強化できると思います。
katzeさん、「期待する」のコメントありがとうございます。精進いたします。
hikoさん、その節は大変お世話になりました。あと、本でご紹介するのをすっかり忘れてしまい、大変失礼しました・・・
投稿情報: Daisuke | 2007年1 月 6日 (土) 00:01
実際に、岩瀬さんの授業態度を見ているとこんな感じでした。
凡人の私めも最低限、努力はしなければなあと思わされたものです。
投稿情報: hiko | 2006年12 月27日 (水) 23:56
ハーバードの学歴は米国で自らの身を処するためには使えるのだろうが、日本に帰ってきたときに日本社会を前進させる力になるのかどうかは疑問だ。
しかし、ハーバードで上位5%担ったような人なら、日本社会の前進に対する方法論を構築することも、努力によっては可能であろうと思う。
期待する。
投稿情報: katze | 2006年12 月25日 (月) 03:32
岩瀬様
初めておうかがいします。
書店で岩瀬さんの書籍を見つけて、購入し、読ませて頂きました。新たな視点や分析の切り口をいくつも頂いた気がして、とても勉強になりました。ありがとうございました。
僭越ながら、私のブログで、読後感などを記載させていただきました。ご興味があれば、ごらんいただければと思います。
http://blog.intelligent-investor.net/
また、こちらのブログ、ちょくちょく訪問させて頂きます。
投稿情報: cpainvestor | 2006年12 月25日 (月) 00:48
「クラスメートの議論を一歩前に進めるような発言」:なんか、すごいですね。
議論というのが、私は苦手です。
だいぶ、訓練をしてきて、慣れてはきているんですが。
投稿情報: farve | 2006年12 月24日 (日) 22:05
議論を活性化させるために自分が心がけているのは
「物を見る角度を変える」です。
今日のエントリーを参考に
「物を見る距離を変える」も加えようと思います。
いつも示唆に富むお話ありがとうございます。毎日楽しみにしております。
投稿情報: 郡山 | 2006年12 月23日 (土) 16:50
岩瀬さんはHBS卒だけど、ロースクール(HLS?)行っても成功しそうですね。ダグラス・K・フリーマン氏の描いた『リーガル・エリートたちの挑戦』(商事法務)の世界も余裕で乗り越えそうだし、J.D.も平気で取得しそうですね。
投稿情報: あ | 2006年12 月23日 (土) 04:37
失礼!HBSなので「人文系エリート」ではなくて「社会科学系エリート」ですね。
いや、文系とか理系の区別も超越してるな、このレベルになると。
投稿情報: あ | 2006年12 月23日 (土) 03:57
面白いですね。
天才の秘密を垣間見た気がします。
それにしても、よくできてますね。
痒い所に手が届くというか。
こういう優れた人文系エリートは
他にいませんね。分野は違うけど
哲学・思想でいうと浅田彰だろうな。
あと、PCやネット業界でいうと
やっぱりグーグルなんだろうな。
あと、サッカーでいうと、とにかく点を
とってくれるロナウドとかねw
投稿情報: あ | 2006年12 月23日 (土) 03:40